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オリジナル 悪魔1 【どれ程の血、あるいは涙】


約束をした。
誰よりも強くなったら。
おまえを迎えに行こうと。
たとえどれだけ時間がかかっても。
おまえを見つけだそうと。
たとえ煉獄に落とされ、互いの姿を見失っても。
おまえの輝ける魂を見つけだすと。
約束を、した。



「どれほどの血が、どれほどの涙が流されたというのでしょう」

祭壇に叩きつけられた神父は乱れた髪の下からそんなことを囁いた。

「あなたの苦しみから」
「…知らない」

猛禽の爪を持ち、蝙蝠の翼を生やした男は、まさしく悪魔と呼ぶに相応しい。もっとも悪魔は悪魔でも、彼はとても階級の低い、人間で言うなら平民ほどの地位しかもたない悪魔ではあったけれど。

「私を堕落させるのですか」

それとも喰らうのでしょうか。
銀の十字架をいただいた祭壇はすでに悪魔が放った禍々しい風で腐り傾いていた。祈りの力の薄い教会の、それでも聖なる源である十字架を手折れたなら、悪魔でも教会の中に入りこむことができた。

「俺はもっと強くならなければならない。今より、誰より」

聖職者を正しい道から堕落させるのは悪魔の信条。けれどそれは上級の連中が好むこと。
下位の悪魔はむしろその清らかな体に根づく力を取りこむことで己の力を高めることのほうが多い。
悪魔は力を求めていた。誰よりも強く、ひれふすような力を。

「それが今の、俺が生きる理由」

約束をした。遠い昔に。
もう顔も思い出せない、覚えているのは魂の匂い。天上に咲く花ですら劣る、愛しい者だけが放つ甘美と幸せを込めた匂いだけを悪魔は覚えていた。

「あなたは、これからも血と涙を流してゆくのでしょうね」

神の愛を、と十字を切った神父の喉笛を悪魔はかき切った。


悪魔が悪魔王のひとしずくの気まぐれと力を注がれて『生まれた』時から、悪魔の両目に光はなく、閉じた瞼からは絶えることなく血が流れている。
それはやがてそこそこに整っていた悪魔の両頬を赤く両断する模様となっていた。
彼は血涙の悪魔と呼ばれている。
悲哀により狂った者を司る悪魔として。

「……」

神父の肉を喰らい、血を啜った悪魔は翼がひとまわり大きく、禍々しくなったのを感じる。
悪魔は己の頬をなぞった。
未だ濡れつづける涙は、いつか、あの魂と同じ匂いのする者が現れたのなら止まるのだろうかと。
そんなとりとめもないことを、考えた。