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オリジナル 逃亡者3 【君のいる街】

 所詮流れものですから、流れには逆らわず風の吹くままに体を傾けてしまいましょう。
 ただ誰かの記憶に残れば上等なものです。
 たとえそれが行き倒れていた老犬であっても。

「おまえも良かったよな」

 温めあう仲間がいて。
 雨露を凌ぐ場所を探して。
 食い物は…まぁ、自分が調達して。
 時々拾ったボールでよたよた遊んだりして。

「もう俺は行くけど」

 墓地の片隅に作った小さな墓石には名前も何もない。下手をすれば勝手に摘まれた子供の悪戯のようだ。いつかちょっとしたはずみで崩されてしまうかも知れない。

「ここの眺めは抜群だからいいよな」

 もともとは血統書つきだったかもしれない毛並みも老衰でだいぶくたびれて、最後の最後まで許さなかった首もとにはえらく立派な首輪が光っていたのも知っている。
 ここを離れようとしなかった老犬がとうとうに覚めない眠りについたのを見送って、たぶん望んでいただろう場所に埋めてやって。
 また、ひとり。

「まぁ、それもいいだろ」

 裾を翻し風の赴くままに。

「じゃあな」

 なんの記憶も残らないと思っていた場所には、ひっそりと老犬の記憶を残して彼は去る。