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葉取3 あめふるよる
※某所の「鎌治の心の闇の部分は人格をもって鎌治の中で存在する」という個人的萌えに乗っ取って、闇取手×表鎌治プラス葉佩という話ですご注意ください。
(いやなんていうか葉取←闇取な感じかもしれない)



息苦しい…
意味もなく首元をまさぐり、しかしそこはもう今朝から始まる息苦しさからとっくに一番上のボタンは外されていたのを思い出す。
微熱に似た気怠さが体中を支配し、静まりかえって安息を得るはずの自室に圧迫感を感じる。
ベッドに横たわったままの鎌治は、ぱたりと首から腕を落とす。

…雨のせいだろう…

薄闇の中、閉め忘れたカーテンから濡れた空が見える。
しとしとと降り大気を濡らす雨を見るにつけ、鎌治のつく息は浅く、しめやかだ。吸っても吐いても、湿気がまといつく感覚。
電気を灯せば気分も変わるかもしれないのに、それすら起こる気になれない。

(…こんな夜には…)

このような夜には、「彼」がやってくる。

「…呼んだかい…?」

部屋の隅の、特に闇の濃い部分を意識的に見ないようにしていたのに。その声がすれば見ずにはいられない。
考えまいとしても、いつかは思考に絡みついたそれが知らずに導く。

「僕を呼んだろう…?」

先ほどより、濃く、濃くなった闇から、ぼうっと真白い指が空から浮かび上がる。まるで淵から体を乗り出すようにずるりずるりとゆっくり、その腕は伸びてゆく。

「呼んでなんか…いない…」
「そうかな。今夜は僕の居心地の良い夜だ…」
学生服に包まれた、驚くほど長い腕が這い伸びたと思えば、闇から唐突にあらわれる白い顔。
それ以上を見たくなくて、部屋の隅から目をむりやり引きはがし反対側に体ごと転がす。

「僕に会いたいと思ったんだろう…こんな夜は…」
「触る…なっ!」
「雨の音が鼓膜を叩いて、叩いて…やまないノイズがまざるような夜だ…こんな夜は僕が慰めてあげられる…」
「そんなこと望んでなんかいない…っ」

ひんやりした指が背後から頬に触れた。這いでた「彼」はベッドの上にまでやってきて、覆い被さるように鎌治に手を伸ばしていた。
振り払ってもその手はすり抜けるように感覚がないのに、離れず、頬を首筋を耳を。辿るように愛撫する。

「違う…僕は…会いたいと思ったのは…っ」
「僕だろう? 違うはずがない…」
「違うんだ!」

闇の中、降り止まぬ雫の音に苛まれても。
見失いたくない、掴みたいと思ったのは。
聞きたいと望む声は。

「おまえじゃ…ない!」

けして、闇を悦び堕落を誘うような。
自分自身では、けして。




 コンコン

雨に混ざって硬いものを叩く音が聞こえた。

 コン

ハッと気づくと鎌治はベッドの上に仰向けになっていた。相変わらずの薄闇の中だったが、部屋の隅には何事もなかったかのように、ただただ埃のように薄闇が凝っているだけとなっていた。

「鎌治ー? …寝てんのかな」

扉の向こうでくぐもりつつも聞こえた声。自分の人より敏感な耳は余すところなくそれを聞くことができる。一瞬それに感謝する。

「ぁあ、あっ、はっ…!?」
「ん? かまちーおーい」
「あ、あ…待って、今あけるっ」

慌てて縺れながらも扉をあけると、何やら口をもごもごさせた葉佩が、「よっ」といつものようににっかり笑って立っていた。

「こ、こんばんわはっちゃん…っ」
「大丈夫か? なんか早退したってリカちゃんが言ってて来てみたんだけど…今日の遺跡潜り、やめるか?」
「…少し寝たら平気になったよ、大丈夫」

背中には、まだ薄気味の悪い何かが貼り付いているような気がする。けれどそれを必死に押し隠して鎌治は微笑んだ。笑えているかは自信がなかったけれども、今不意にとはいえ現れてくれた葉佩から離れてしまえば、また「彼」が蠢いている部屋に取り残されると、鎌治は本能的に悟っていた。

「ふーん…まぁ今日は雨も降ってるしなー気が滅入るよな」

もごもごと口を動かす葉佩から、何やら甘い匂いがするとここに至って鎌治は気づいた。

「はっちゃん…なにか食べてる?」
「んーん? やっちーがくれたの。食う?」

ごそごそとポケットを探った葉佩が掌を開く。余った弾丸だの硬貨だのに混じって、小さな透明なビニールに密封された、場違いなくらい明るい黄色い飴玉だった。真ん中が刳りぬいてあって、とある形状を真似ていたそれの名前は、鎌治でも知っていた。

「パイン飴…?」
「こーゆー日は甘いもんでも食べて気分転換しようぜ。な?」
「あ、ありがと…」

手渡された何粒かのうちの一つの袋を破り、口に放ると甘い、だがどこか酸味をもった独特の風味が舌に広がった。幼い頃に姉と食べて、それっきりだったその味は何年もたったというのに変わっていない。

「お礼はやっちーにな。俺、こういうの食べたことなかったしー」
「そうなの…?」
「ガムばっかりだったかな」

ちょっと新鮮だ、と噛まないように必死になってみせる葉佩を前に自然と鎌治は笑いを漏らしていた。飴の甘みと変わらぬ笑いが呼び起こしてくれたように。
掌の袋をぎゅっと握りしめる。そこにはポケットにあった温もりが残っているような気がした。

「行こうか、はっちゃん」
「おう、鎌治!」



闇の中、降り止まぬ雫の音に苛まれても。
見失いたくない、掴みたいと思ったのは。
聞きたいと望む声は。


 ただ一人の、君。