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こたうじ25


※ネコの日(2/22)に間に合わせたかった、にゃんこなネタのこたうじです。朝起きたら猫になっちゃいました話。


ある日のこと、氏政が猫になっていた。

「!?」

日課として、早朝に庭の雀を愛でにやってくる氏政が、今日に限って降りてこない。訝しんで寝所にやってくると、布団と着物のあいだに老猫が身動きもできずに苦しんでいた。分厚い布団の重みに抜け出せなかったらしい。
普段滅多に動揺することのない(注:氏政に関することを除く)小太郎が思わず息が止まったくらいには、驚愕の事態だった。
その猫は、痩せてみすぼらしく見えるのに、耳毛と髭が驚くほど長いためか不思議な貫禄を備えていた。肋が浮いて見え、かつては艶々していたのだろう白い毛並みも見る影もなく。だがその枯れた風情こそが慕ってやまない主の姿を体現していた。

「…のぉう」
「…っ…!!」

助け出された猫は「な」と「の」の間の、微妙な発音で鳴いた。小太郎を呼ぶ時の響きをそっくりであった。
この白き老猫は氏政であると確信した瞬間である。
だが次の瞬間、主をその手に抱いていると気づいた小太郎はぱっと放りなげてしまった。
……風魔小太郎、一生の不覚である。肩先にも触れたことのない主を猫の身とはいえ抱き上げ、なおかつ放り投げてしまった己の未熟さを小太郎は永く悔いたという。

「あぉ…」

一方、運良く布団の上にぺしょりと落ちた猫は、ふにゃふにゃとした声で目を覚ました。瞼の上にふっさりした毛があるせいか、よく見えていないらしい。頭を起こし、ふぐふぐとくすんだ桃色の鼻がひくつき、手っ甲に覆われた小太郎の指先に近づく。

「!!」
「ぉあぉ…」

猫の猫たらしめんとす、可愛らしい声とは無縁の鳴き声。老猫は小太郎に向かって鳴いた。


2月22日 氏政、猫と化す。



「………」

悠然というにはよろつく足取りで、小田原城の廊下を歩く猫の後を小太郎はしずしずとついていく。後をついてまわる忍びにまったく気を回さないあたり、ますますのらしさを感じて、小太郎は胸を熱くする。
短くも長くもない、だが斜めに先細る尾がゆらりゆらりと遊ぶ。
氏政と比べ小太郎は気が気じゃない。珍しもの好きの北条家親類に会わないかとひやひやもする。実兄であろうと氏の長者であろうと、猫になった氏政を氏勝以下が黙っているわけがない。(十数人といる北条家男子のうち、常識人は氏政実子・氏直だけだと小太郎は思っている)
幸いなことに、猫の通る道に親類の姿はなく、小田原城はいつになく静かであった。

「のあ…」

と、猫の足が止まった。氏政お気に入りの、南向きの縁側である。ここは朝から夕刻まで日がさしこむため、時折氏政が公務を離れ、転た寝をしているのを小太郎は知っている。
長い髭をひくつかせ、猫は板張りのそこにころりと丸くなった。

「!?」

息をしているかしていないか、静かすぎる寝息が漏れて初めて、小太郎は猫がそこで眠り始めたのだと気づいた。
小太郎は所在なく縁側に腰を下ろす。いつもは屋根から見下ろす縁側を、低い視点から見つめた。
ぴぴ、と雲雀の鳴く長閑さ。小田原では日常である昼間の顔。夜の底では小太郎が支配者であるが、穏やかすぎる花の城小田原の主はやはり、氏政で。その老爺は今、猫となってすやすやと眠っている。

「………」
「…ぉあぅ」

隣の気配に気づいた猫がひくりと髭をふるわせた。のっそり頭が持ちあがり、ぽてりと傾いた。

「!!!!!!」

鍛えられた腿に猫の頭が乗った。小太郎はぴきりと凍り付く。
頭を預けるには高すぎたらしい。わずかに喉を低く鳴らした猫はずりずりと動き。
小太郎の膝の上にまんまると寝転がった。

「!!!!???」
「ぁぁぅ」

猫は動くなとばかりに一声鳴いてから、ぷーと寝息を漏らしはじめた。
ほんのりとしたぬくもりを膝の上に感じながらも、小太郎は。
夕刻まで一寸たりとも動けなかった。






次の日には、猫の姿はなく。闊達な老爺が朝の庭に豆を蒔いていた。

「ぬ!弛んでおるのう、今日は寝坊じゃぞ」
「………」

言葉の意味を考えるより、その姿を認めて小太郎は色々な想いを込めて、こっくり頷いた。

2月23日。氏政、人の姿に返る。






※もっと書きたいことあったんですが、氏政猫話はこんな感じで。両方猫とかこた猫とかも考えたらすごく楽しい。