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学園こたうじ5

図書室の間続きで薄い壁が仕切となっているだけの図書準備室にはヌシが住まう。代々教師をつとめたという家計で、定年後も司書として学校に居座る老人、北条先生である。
頑固で話の長い氏政にとって学校は全人生をかけた去りがたき場であり、かつて創立に協力したと理事の曾孫という立場をいいことにひとり教師陣の平均年齢をつりあげている人物だ。
その氏政の最近の楽しみは先達のすばらしさを語ることではなく、年若い…年輪がふたまわりは少ない孫のような生徒との交流だった。

「今日はこれにするかのう」

清掃の終わった放課後の図書室には空しいほど人がいないが氏政は気にしない。いくら換気しても消えない紙や古書の埃のにおいにあうものははじけるような若い喧噪を拒むように降りつもる。
さて司書準備室には、氏政以上に年季の入った蓄音機が鎮座している。誰が持ち込んだ骨董品か知るものはもはやいない。ぬくもりのある金色の管からは、氏政が持ち込んだゆるやかなレコードが流れる。大きくはない。絞られたクラシックピアノの歌は古書の機嫌を損ねず、つやを帯びた木の床を滑る。
午睡を誘う絶好の空間がそこでは完全に紡がれ、もっぱら氏政はこの空間の維持に力を注いでいる。
サティのさみしげなピアノの旋律に我ながら良い選曲だと自画自賛する。

が、ららら

図書室の重い扉を巧く静かにあけられる生徒は少ない。旧校舎ならではの癖ととっかかりのある部分を浮かして滑らせる技量のある者を自分以外には氏政はひとりしか知らない。

「ほうほう、今日も来たのじゃな。感心感心、小太郎よ」

前髪を覆った遙か年下の、図書室の同志を見、氏政の顔に刻まれた皺が深くなる。

「引き続き、今日は全集の修繕を頼むぞい」

無口な彼はかくんと首肯を示し、もはや定位置となっているカウンターの内側の椅子に座る。うず高く積まれた修繕待ちの本を黙々と、一冊一冊丁寧にいたわり始めた。

「職員会議にでてくるが、すぐ戻るぞ」
「……」
「では、レコードの片面が終わる頃にの」

鍵をかけても壁の薄い図書準備室からは変わらずサティのピアノが聞こえる。氏政のいない間、小太郎によりそう音は曲が変わり、先の独奏より、はなやかなそれになっていた。
ゆるやかな時の流れと言い知れぬ懐かしさの満ちた図書室。氏政と小太郎の書物に囲まれた放課後はそうして誰にも知られずひそやかに始まった。





じっちゃんの図書室はこたの楽園。