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こたうじ20(語り手かすが)


南に下り続けて数日、空気が変わった。同じ海に面した国であっても越後と相模では寒さの質が違った。
ふたつの国の境でかすがは足を止め、相手が訪れるのを待つ。

「来たか」
「……」

さほど時もかからず、かすがの前に影が落ちる。相模は小田原、北条氏政につかえる風魔小太郎は目深に被った兜の奥からかすがに用件を伝えた。

「謙信様より文だ。以後も越相互いに恙無くあらん…と北条の主に」
「……」

かすがの持ってきた文箱を受け取り、小太郎は頷く。長年にらみあう甲斐と越後にとって隣国相模は味方にして越したことはない。北条は、どちらにも縁が深い。今は上杉方の北条だが釘を指すことに無駄はない。

「風魔…氏政殿は健在か」

任務以外には口をきかないくの一の呼びかけに小太郎は応えた。音はないけれど。
小さく、唇の端で笑った風魔忍びの長はそのまま風と闇に掻き消えた。

「…おまえも笑うことが、あるんだな」

生ける武器、血の通った暗器と呼ばれる忍びの頂きに立つ者の一人。すでにそこは只人の辿る域ではないのかもしれない。
だが風魔小太郎は笑っていた。主に仕えることを純粋に喜ぶ笑みを浮かべた。

「ただひとりの主に身を尽くす喜びがおまえにも…」

かすがは身を翻す。
小太郎は小田原へ、自身は春日山へ。



一身に慕う主の元へ。