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こたうじ17


小田原城は華やかな桜に彩られており、今生にて一度は目にしておくべしなどという言葉が出回るほど美しい。
特に小田原北条一族でも趣味人と名高い氏政は各地からその道の大家を招いては教えを請うている。

「佳いものをみる目は佳いものを見なければ養われぬからの」

遠く異国から渡ってきたという茶器や名画に囲まれる氏政は悠々自適な楽隠居を楽しむ老人にしか見えない。

「小太郎も佳いものをできるだけみるのじゃ」
「…?」

果たして美を見極める目が忍びに必要なものか否か。それは間違いなく後者なのだが。

「我らが北条一門の栄光の礎には、ご先祖様は勿論のこと、名もなき者らの力によって支えられておること、心せよと亡き父上はよく仰っておった」

そして己が目を曇らせることあたわず、とも。

「儂の目が曇り迷うことは即ち栄えある北条家の道を危うくさせることも同じじゃ」

袱紗に茶器を納めた氏政は山水画の掛け軸を眺め、目を細めた。それは佳い目を養う行為そのもののように思えた。
ものをみる、という行いが重要ではなくそこから感じいる心を磨くことこそ、人に対する己の厚みを増すことにもつながり、佳い目は佳い者とそうではないものを見分けるのだという。

「…??」
「難しいかの」

まあおまえは言葉よりも体でわかるじゃろうなと氏政は笑った。

「小太郎や、人としての厚みを持つのじゃ」

唐渡りの梅干し壷から一粒二粒渡してやり、氏政はそのようなことを言った。
真意を計るには、風魔小太郎は氏政の言う人としての厚みがまだ足りておらず、単純に首を傾げて梅干しを受け取るだけに終わった。