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こたうじ16


「…依ッテ四代目当主氏政記ス、とな。よし!」

筆を置いた氏政が満足げに腕を組む。『子孫が語る栄光の北条家』の第一部の第一稿の完成である。

「小太郎、おるかの」

時刻は草木も眠る丑三ツ刻、しかし明かりの影から音もなく忍びが現れるのを氏政は確信していた。

「見てみい、第一稿の完成じゃわい。まずは初代様の御統治時代じゃ」

小太郎は紙束を前にして、こくこく頷き小さく拍手までした。精一杯の氏政をいたわっている。
小太郎は影から氏政が文机についているのを毎日見守っていた。雑多な覚え書きや杜撰な整理の書庫からもってきた文献と格闘し、てこのような夜更けまで熱中する氏政を心配もしていた。

「やれやれ、一段落じゃて」

背後にまわって小太郎は慣れた手で氏政の肩をほぐしはじめた。一度気に入られてからはこの役目は小太郎が仰せつかり、誰にも譲らない。

「千里の道もなんとやらじゃ。小太郎や、立派なご先祖様の記録を書き上げるまで頼むぞい」
「!」

背を向けた氏政は気づかなかったが、兜の下の、忍びの顔はほのかにほころんでいた。