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こたうじ7


夜に忍びて夜に消ゆ

そういう戯れ歌が流行ったことがあった。
続きは何だっただろうかとふと思い返す。命と命の取り合いが空気のようにかろく交わされる身。小太郎は凶刃をはねのけながら月光を浴びる。
小田原につけいる隙を探す他国の下忍を散らす小太郎は分身を繰りながら歌の続きを思いだそうとしていた。

「…?」

確か昔の自分にしては珍しく、その歌を覚えようとし度々胸中で奏でていたはずだった。小田原に、氏政に仕えるようになってからはその頻度が減り、今このように他事をこなしながら朧気に思い出す始末。

「ぐっ…」

命絶える声音も僅か。
最後の侵入者をほふった小太郎は手傷ひとつない。


夜に忍びて夜に消ゆ


最後の節回しを気に入っていた筈なのに。
小太郎は配下にその落胆すら気取らせることなく、主に報告せんがため闇に消えた。ちょうど歌のように密やかに。



夜に忍びて夜に消ゆ