※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

アベミハ1 電話


「なんで修ちゃん、なんだよ」
「あ、え?」

 まるでコードレスホンが諸悪の根元であるかのように目を眇めた阿倍に、三橋はぎくしゃくと疑問をかみ砕いた。
 なんで、修ちゃん、?

「今の電話、三星の叶だろ」
「う、うん」
「前は上の名前で呼んでたよな、叶君って」
「あ、あー…」
「さっき修ちゃんって三橋言ってたぞ」

 胡乱な言葉しか返さない三橋に、内心イラつきながらも辛抱強く尋ねる阿倍。

「修ちゃ、叶君は幼なじみで、中学の時は、馴れ馴れしいから呼ぶなって…」
「叶が?」

 ううん、と首を振ると、阿倍は野球部の連中かと舌打ちまじりに呟き、それにこくこくと頷いた。
 三星との練習試合が終わってから、叶はぽつぽつと電話を寄越すようになっていた。だいたい三橋は相づちくらいしか返せないのだが、電話の向こうで叶が昔のように笑っているのかと思うと知らず知らずのうちに顔がゆるむのだった。
 叶もやはりその呼び名が懐かしいのか、時々滑り出る「修ちゃん」とには少し嬉しそうにしているのは、いくら鈍い三橋でもわかった。
 けれどそれが阿倍の不機嫌を招くのがよくわからない。

「…阿倍君?」

 とたんに三橋は落ちつきをなくして、全身をアンテナにして阿倍の顔をおどおど見つめた。
 どうして怒っているのとは、口が裂けても聞けない。だから顔の中で目立って大きな瞳が、どうしたの?と言いたげに阿倍を映す。

「なんでもない。…三橋」
「う、うん!?」
「俺が来てる時に叶から電話あっても、出るな」
「え、え」
「電話しちまったらさっき俺と話してたこと、三橋は忘れるだろ」

 だから。と言い切った阿倍に、三橋はたくさんの?マークをつけながらも頷いた。

「よし、確認。叶から電話がかかってきたら?」
「阿倍君が、うちに来てるときは、後にする…」
「うっし」

 なんだか方向性がずらされていることにちっとも気づかない三橋は、コードレスホンの子機を充電器に戻すために立ち上がった。
 そのふわふわした癖毛頭を見つめながら、親しげに修ちゃんなんて呼んでんじゃねぇよとか、どっちが優先順位上かってことくらいわかれよとか、理不尽な嫉妬に焦げつく阿倍がいたことを彼は知らない。