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識柚18 姉神4


師匠に姉、師匠に姉…というか家族がいたのか。弟子失格みたいなことを識は考えたが、ユーズが進んで家族のことを話すシーンが、そういえばなかった。

「相変わらずきっちゃない部屋やねえ」
「男の一人暮らしなんやから当たり前や」
「残念やわあ、お姉ちゃんゆんちゃんの彼女がいて鉢合わせしてもたらどないしょって思ってたんやで」

玄関先の騒動から数分後、ユーズの姉はすっかりその場になじんでいた。肉親の強さとでも言うべきなんだろうか。

「鉢合わせしたんが識君でよかったわあ」
「はあ…」
「識、コーヒーいれてや」
「まっ!ゆんちゃん人様を顎で使たらあかんでしょっ」
「ええねんコイツはわいの下僕なんやから!」

キッチンに立った識は曖昧な苦笑で三人分のコーヒーをいれる準備を始めた。
いや今更下僕扱いされても構いませんがね、愛が、愛が見えないよ師匠…

「あ、姉ちゃんのは専用があるから探してな」
「マグカップですか?」

そんなもんあったっけ?と首を傾げると、「……めっちゃ目立つのが棚の一番奥にある」と沈んだ声が飛ぶ。
あけてみると収納率の低い食器棚に不自然なくらい詰め込まれた箇所を見つけた。もしかして…とより分けてみると、あった。


『LOVEゆんちゃん』


あったよ。デカデカ描かれたマグカップが。陶器の上品なボディにがっつりと。
不自然に隠すのも姉以外誰にも使えないのも、わかる気がした。

「あ!ゆんちゃんまだ持っててくれたんやね!お姉ちゃん嬉しいわぁ、懐かしいわーそれゆんちゃんのお土産にうちが書いたんですねん~よう書けてるやろ?」
「…捨てたら呪われそうやし」
「なんか言うたゆんちゃん」

姉弟漫才がまたも始まりそうな中、識はもう乾いた笑いしかできなかった。

「せやけど識君みたいなイケメンが弟子やなんて、ゆんちゃん相変わらずオトコにばっかり!もてるんやねえ!」


ぶっ!!

ぶほ!!


姉上様の爆弾発言にユーズは再度むせ、識は危うく粉コーヒー瓶(プレミアムブレンドお徳用詰め替えパック)を落としかけた。

「な、な…」
「今もこないちっこいけど、ほんまに小さい頃から、ゆんちゃんが大きゅうなったらお嫁さんにしたるって近所の男の子らに言われてたんよね~」
「そ、それは姉ちゃんとおかんが女の服ばっかり着せ…っ」

反論しかけたユーズがはっと動きを止めた。
キッチンで識が耳をダンボにしていたのである。



師匠の隠された過去が聞けそう?
最終更新:2006年07月29日 05:59