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ゼファミリー5


「は…………」



「……っくしょえい!」

ご近所でも美男子評判の顔を秒殺できそうな大層大きなくしゃみがリヒトから漏れた。

「へぶしょ、へっ、はっ……くしょんっ」

タメの入ったくしゃみは特に酷い。思わず食卓についていたルルススとキラーがリヒトにあわせるように凍りつくくらいに。

「リヒトだいじょうぶ?」

お茶碗を下ろしたルルススが心配そうに声をかける。リヒトの隣のキラーはおろおろしつつも、リヒトのために居間のティッシュ箱を持って来て渡した。

「おぅぅ、さんきゅ……」

悪態もつく余裕もないのか、ティッシュにリヒトは「ぶーっ」と派手に洟をかむ。すでにリヒトの鼻の頭はかぶれてしまっている。キラーは明日スーパーの特売日じゃなくても「敏感鼻さんに大人気!やさしいやさしいティッシュ」をパック買いしてこようと決めた。ちなみに今使われているのは特売でお一人様1パックのお値段もそれなりのやさしくないティッシュだ。

「今年のかふんしょーは鼻にくるぜ……」
「無理しないで、病院行こうよ。あたし付き添ってあげるから」
「いいやぁ、薬は去年のがあるんだがあれ飲むとぼーっとして……」

そこでまたティッシュに鼻をつっこむようにして「ずびーっ」と洟をかむ。
リヒトの花粉症は年季の入ったものらしく、毎年毎年バリエーションに富んだ症状に悩まされる。この季節、テレビに杉花粉の飛び散る映像を見たものなら、それだけでくしゃみを連発する始末だ。ルルススは年によって、キラーに至ってはこの季節まったく花粉に困らない。まったくもって羨ましい体質だった。

「去年は涙が止まらなくて目を腫らしちゃったから、化膿止めと目薬でしょう?今年は今年のあったお薬飲まなきゃ」

ルルススの言い分はもっともだ。普段リヒトが前に出てすべてを取り仕切っているが、案外ルルススもまとめ役に適した性格をしている。
キラーがうんうん、と賛成するように頷く。

「やなんだよ外来病棟で似たよーな奴らとくしゃみかますの……」

もうただのだだっ子である。たぶん外に出るのも嫌だし、同じような患者と十把一絡げで薬を出される扱いも嫌だし、ルルススに(おまけでキラーに)気を遣われる……そういう事態に陥る自分がもっと嫌なのだ。

「ルルは、元気なキラーと一緒にお花見したいな…今年はエクレメスお姉ちゃんと行っただけだもん」
「うっ」
「ね?明日はあたし学校があるからダメだけど、キラーに付き添ってもらって病院に行こう?お薬もらって、みんなでお花見見れるくらいに元気になって!」

ルルススのお願いに、リヒトは弱い。自分の懐と「敏感鼻さんに大人気!やさしいやさしいティッシュ」が一番安売りしているスーパーはどこか必死に考えていて名指しされたキラーは一瞬飛び上がるくらい驚いたが、すぐにこくこく頷いた。

「……。…、………」
「なんだよ、おまえも花見がしたいのかよ」
「……!」

できることなら、三人で。

「……ち、しゃあねえなぁ!キラー!明日は受付時間開始直後に駆け込むからな!早起きしろよ!」

俺は寝る!と言い捨ててリヒトは寝間のほうにどすどす歩いていってしまった。

「……」
「大丈夫だよ、キラー」

気分を害してしまったのではないかと顔を曇らせたキラーにルルススの声が優しい。

「自分で決めて口に出したことだもん。リヒトは絶対に病院に行ってくれるよ」

リヒトが、キラーが、ルルススが。全員が全員を家族だと思って大切に思っている。形はずいぶん違うけれど、皆この家で同じ暮らしをしている者すべてを愛しく思っているのだ。リヒトとて、それをわかっている。

「あたしたちが普段苦労しないのは、リヒトのおかげだもんね。今はあたしたちがリヒトを大事にしてあげる番」

大人びた少女の言葉にキラーはほんのり頬をゆるめる。どんなに他人が「悪事を企んでいそうな黒い微笑」だと言おうとルルススには安堵するキラーの笑みだとわかっている。たぶんそれは今この場にはいないリヒトにも。

「明日、ちゃんとリヒトを病院に連れて行ってね?」

こっくり。頷いたキラーはつづれない言葉の代わりにルルススをぎゅーっと抱きしめた。精一杯のキラーの親愛の表現だった。