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オリジナル 梶君とみっちゃん2 【瑣末な出来事】


「まだ実感できそうにねぇや」
「なにが?」
「俺らも、あと一年したら卒業するんが」

早咲きの梅と人の波を見下ろしながらすするコーンポタージュはゆるゆると湯気をあげ、光広をあたためる。
一足先にお汁粉を飲み干した梶は、そうだねえと頷く。

「その前に進級できるといいね」
「馬鹿、そういうこと言うなっ」
「いいじゃん、みっちゃん数学得意っしょ。理系クラスでもいいほうって聞いた」
「……今の世の中、専門馬鹿よりオールラウンダーのほうが得するぞ」

文系平均成績、まさに中の中をいく梶は見ようによってはそう取れなくもない。微分積分が得意でも、尊敬語と謙譲語の区別がさっぱりわからない光広にとっては何でもするりとこなしているように見える梶が羨ましい。
眼下に広がる人並みはところどころで留まり、または流れ校庭に様々な模様をつくる。地上三階の屋上から見下ろすだけで人の顔はほとんどわからないそこに、いつか自分も紛れるという未来像が光広には見えない。

「卒業する前にみっちゃん、どっか行っちゃうかもしれないし」
「ああ?親父はもう引っ越さないって言ってたぞ」
「いやさ、高飛びしますっとか?」
「海外逃亡かよ」
「留学とか」
「そんな金のかかること、今すっかね」
「今しかできないでしょう」

 あおげばとうとし わがしのおん

どこかで運動部か、気分の盛り上がった誰かが超しっぱずれな歌を歌っている。笑いとともに歌い出す連中が出て校庭は妙な熱気に包まれる。
朝から嫌になるほど練習させられた校歌のように、自らを送る歌も数年後にはこうして覚えていくのだろうか。

「……ま、イメージトレーニングくらいはできるよな」
「みっちゃん、卒業式で絶対泣くタイプ」
「泣かねえよっ」
「うっそん、みっちゃんが涙もろいの俺知ってるし」
「絶対泣くか! おまえこそ周りの雰囲気に流されて泣くんじゃねえぞっ」

 いまこそわかれめ いざさらば

そこにはまだ立つことができない別れの道。
今は先に往く者たちを見送るだけ。

光広はコーンポタージュを飲み干した。

「一緒に卒業しようね」
「当たり前だろ」