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ゼファー6 雪

「ここは雪が降るんだね」
「実際には雪じゃない」
「わかってるよ。寒くないものね」

以前『雨』を見ていたのはルルススだったが、今度は『雪』をリヒトは興味深そうに眺めている。
重力に素直に従って降る光を『雨』と名づけることはできるが、薄紅の髪をしどけなく垂らしながら同じ色の瞳が見つめる先の光は、ふわりと重みを持たないように静かに落ちている。それは本物の雪のように積もることはなく、地表に接すれば消えてしまう。
淡雪の儚さに似た光を、ここでは『雪』と呼んでいる。

「閉じられた空間に生きる者のための、せめてもの慰めみたいだ」

時計台に繋がれた存在、すなわちルルススのために。

「いっそ花が降ってこないかな? あの子も喜ぶだろうに」

無邪気を装って笑うリヒトはキラーから見れば、そんな現象に対する感傷的なイメージを持つことを嘲笑しているようにも見えた。

「見てごらんよキラー」

青い眼が自分に向くことを確信した上で誘うようにリヒトが腕をさしのべて『雪』を捕らえる。
細く枝のように伸びた指の上で『雪』は淡く、融けるように消える。

「冷たくも、あたたかくもない」
「……おまえみたいだ」

熱を持たないのに、保ちつづける輝きが似ていると、その時なにげなくキラーは思えた。

「似てる?」
「……何となくだ」
「そんな嫌そうに言わなくていいじゃない」
「何か言うと茶化すのはおまえのほうだ」

再び『雪』を捕らえたリヒトがふっと息をふきかけた。吐息に流されるまま『雪』はキラーへとかかる。

「こんなに綺麗なものじゃない。似ているなら、むしろ君のほうじゃない? キラー」

淡雪の向こうで笑むリヒトが近づく。
熱くもなく、凍えてもいない。
やはりリヒトのほうが似ていると、『雪』に触れていた指がキラーに届いた時に漠然と考えた。