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ニクシロ3 鍋

「鍋しよう、鍋」

無邪気に誘う士朗の言葉にうっかり乗って、エレキと同居だというアパートにやってきたのはいいが。
玄関で猫同伴で笑顔で迎えてくれるポニーテールは俺も大歓迎だが。仏頂面で迎えるマゲはいらない。

「誘ったのはあいつだぜ? いい加減兄離れしろよ」
「うるっせぇんだよ!」

ムキになって俺に噛みつくエレキの頭をぽんぽん叩いて俺は玄関をあがった。嫉妬と羨望の視線は気持ちがいいもんだ。



鍋はサイレンが少ない食料をやりくりしてウマいことやってのけるので、俺にはけっこう馴染みが深い。どっぷり濃い味で育った俺には薄味なのは否めないが風味の良さというのが最近わかるようになってきた。あくまで気のせいの範囲だが。

「肉入れるぞー」
「こら、豆腐が崩れる」
「タレどこだタレ」

思えば珍しい構図だ。この兄弟の人の出入りはあって、招かれたのが俺だけっていうのは初めてじゃないのか。そう尋ねてみると「皆予定があってさ」と士朗が残念そうに言う。

「それでフリーな俺が呼ばれたってわけか」
「嫌なら来なくてもいいんだけどな」
「こらエレキ」

軽くこづかれてもエレキは不満そうな顔を隠さないが、それでも兄貴とのじゃれ合いを俺に見せつけようとでもする邪念を感じるのは俺だけか。ブラコンめ。
匂いにつられてやってきた猫を撫でてやってみる。何故か士朗以外にはあまり懐こうとしないこの猫は面識の少ない俺に対して随分横柄で……いや、人懐っこく背中を撫でろと言わんばかりに膝に乗ってくる。
普段からこれくらい甘えてくれば可愛いものをと撫でてやりつつ、肉を無造作にぶちこむ士朗に視線を送ってみるが一心に鍋に向けられている青い目がこっちに向くことはない。それをざまぁみろと言いたげなエレキにもむかつく。
五十歩百歩とでも言いたいのか、おまえは。

「どうしたんだおまえら、変な顔して。もうちょっとしないと食えないぞ」

空腹ゆえの機嫌の悪さと取ったらしい士朗がのほほんと俺とエレキを見遣った。

「なんでもない」
「ああ、なんでもないよ兄貴」
「そうか?」


 おまえのせいだよ、とその一瞬だけ俺とこにくたらしいエレキとの呟きが聞こえてきそうな気がした。