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エレシロ5 花冷え

「さみぃな……」

春には薄紅で埋まった道をとぼとぼと歩く。街灯はうらさびしく足下を照らし、時折かさりと木の葉を右へ左へ翻弄する風が闇の向こうへ連れ去る。
二人で済むアパートへはここが一番の近道だ。春には桜並木になる様をエレキはまだ見たことがない。ただ、不動産から話を聞いている時に士朗が風情があっていい、と言ったのを覚えていた。
候補はいくつかあったものの、結局そこに落ち着くことになったが、移り住んだのが夏だったので士朗だってまだその桜並木を拝んだことはない。

「もうちょっと計画性もてよな……」

どうせ士朗は実家に植わっていた桜の樹が懐かしいんだろう。士朗が生まれた年の記念樹として、今も木枯らしに耐えていることだろう染井吉野は毎年数は少ないものの美しい花弁をつけていた。
ちなみに数年後にはエレキの誕生による記念樹も植えられたのだが、そちらは梅だった。
どちらの樹も実家の庭でじっと春を待っていることだろう。
春になったら。
この並木を歩くのも悪くないだろうけれど。

「一度くらいは戻るのも悪くねえんじゃねぇの?」

誰に言うでもなく呟いて、エレキはまた歩き出した。