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悪魔6」(2006/07/26 (水) 05:57:13) の最新版変更点

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オリジナル 悪魔5 【凶】 「今日は釣りに行こうか」 のほほんとカップをソーサーに置いて、彼は言った。 「最近もめ事が少ないから、湖まで行けるようになったんだよ」 空には白銀と白金の月が昇る。人間の刻限で言うと、昼下がりだ。 溜息を隠さない来客者に、彼は釣りは気に入らないかな?と首を傾げてみせた。 「なんでおまえはそう地味なんだ」 「ええっ、地味なのかい僕は!?」 派手であってほしい。少なくともちんまりとはしてほしくない。 炎獄の魔王と謳われる居城で、その主はいささか地味すぎるほどに地味な悪魔だった。趣味が釣り。盆栽、書道。最近は茶道もたしなみ始めたとか。 「隠居暮らしを楽しんでる魔王なんて聞いたことがないね」 配下数万を従え、青い炎で壮麗な城を彩る、炎獄。その気性はかつての天使との大戦では怖れられるほどに冷酷非情、捕らえた天使の皮を剥ぎ、それを同胞に喰らわせ下級の魔物に下賜してやったり宴の出し物と供した。 その大戦から百余年。炎獄の王はすっかりのほほんとした楽隠居魔王になっていた。 「だってそうそうギスギスしていたら僕の気が休まらないじゃないか。僕は今が平和でいいと思うけど」 炎獄の悪魔は再び紅茶をとりあげながら言葉を返す。 「君こそ暇つぶしに何やら面白いことをしたっていうじゃない」 「ああ、あれのことか」 「伴侶もいないのに子造りだって噂になっていたよ?」 「子供ではないんだが」 「知っているよ。君は自分しか好きじゃないもの」 その言葉の響きは責めるようにも憐れむようにも聞こえる。 「あれの魂は興をそそる響きをしていてな、末路を見たくなった」 己の無力に慟哭し、堕ちてもなお力を求めながら、自ら血の涙を流す魂。来客者はそれを面白いと思い、養い親となった。 「今度連れてきてくれないかな。釣りでもしながら話をしてみたいよ」 「しばらくは戻らないな。あれは今、必死に大きくなろうとしているから」 「君こそ人柄がまるくなったんじゃないかな」 「いいや。変わらず禍々しくいこうと思っているよ」 でなければ救われるべき魂を堕落させ、わざわざ悪魔へと生まれ変わらせはしない。とある悪魔の養い親は、やはり非情な悪魔の王だった。 「ああ。いい天気だなぁ。本当に釣りをしないかい?」 「釣れても魔界の怪魚は食うつもりはない」 炎獄の魔王の居城でのこと。
オリジナル 悪魔6 【君は人魚】 人魚姫は愚かであるとセイレーンは嗤う。 「喰っちまえば良かったんだよ」 性欲と食欲が極端に近い人魚種は愛情は欲情であり食欲だ。食欲に支配されているというとヤジフーもそうであるが、暴食のヤジフーと人魚種は違う。 「綺麗な鰭も綺麗な声も失うことはなかったんだよ。愛しい相手は喰う。これに限るね、我が身の血となり肉となり至上の交わりとなす、だ」 愛情が湧かない相手にはセイレーンは誘惑の美声どころかこうした擦れた娼婦のような口ぶりだが、ひとたびそれが意中の相手となれば麗しいオペレッタとなる。 「それで?アンタが来たのは何の御用だい」 「単に使いだ。我が主から海王殿へ」 セイレーンは海面より岩場に立つ血涙の悪魔を見あげる。両目を閉じ、頬を血で濡らす他にはこれといって平凡な悪魔である。蝙蝠の翼、黒衣。 「密書かい? アンタの主は炎魔様と仲がよろしいっていうじゃないか」 火と水の相性の悪さは今に始まったことではない。セイレーンは海妖といえど水の性、火を嫌い、炎獄の王から使いを堂々と海の藻屑にすることも厭わない。実際のところ、トップ同士はさして仲違いをしてはいないのだが、主君ほど配下は他属のものを思いやることができないのが現状である。 血涙の悪魔が懐にしまっている黄金色のの封蝋が成された親書も中身は炎獄の君から海王に向けての親書だ。たまたま地上から戻ってきたところで主ににっこりと「使いに行け」と押しつけられたのである。 ちなみにセイレーンは愛しいものを喰う性質があるが、逆に忌み嫌うものと出会った時は容赦なく五体を引き裂き、魚の餌にする。それも自分の体に血や肉がつくことを嫌って、鮫やらを呼び出して少しずつ喰わせたりもする。 「セイレーンが気にすることじゃない。主には主の思惑があるのだろう」 「はっ、お高くとまってるね」 それでも炎魔ではなく血涙の悪魔を手にかける愚をセイレーンは犯さない。目下、彼の主はこの目の前にいる平凡そうな悪魔に目をかけているのだ。悪戯に鮫に噛みつかせようものならセイレーンが咎を受ける。 「行くがいいさ。深海宮の道は開いてやるから自分で行きな」 「礼は言っておく」 「ねぇアンタ」 海を割って海底を歩くことを許された血涙の悪魔が、濡れた岩肌を進み始めた時セイレーンは分かれた波間で尋ねた。 「アンタはどう思う? 人魚の最期は」 「選択肢を持てなかったものの末路だ。興味はない」 生意気だねっ、とキンとした声で言われたが、彼の顎からは一滴、血が落ちただけだった。 「おまえはセイレーンといっても、結局人魚でしかない。喰いたい相手しか見つからないのならば、喰い続ければいい。きっとその人魚は脚を持った時点で人間だったんだろうよ。喰わずに添い遂げたいと願ったのだから」 たとえ叶わずに自らが泡となる運命を背負ったとしても。

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