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「エレグラアミ3」(2006/07/26 (水) 04:45:55) の最新版変更点
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エレグラアミ2 【人工太陽。】
「快晴快晴。よきかなよきかな」
からから笑うエレクトロの傍に、ぐったりしたグラビティが横たわる。
「おまえ体感温度設定おかしいんじゃねぇの…まじあっつ…」
「いやぁそれは単にグラが北国出身だからでしょ」
アーミーが水買ってくるまで待ってな、と硬い頭を撫でてやる。
「ソーラーで電力供給するっていうのは良い方法だよな。光っていうのは一定量のエネルギーを半永久的にもたらしてくれる」
だからといって、食物を摂取してエネルギーを得る楽しみを知らないエレクトロではないけれど、イマイチ味覚が妙なベクトルに向いているのは周知の事実。
「随分、大事に作られてるンだな…」
ずりずりナメクジのように移動して、エレクトロの背中の日陰に顔だけをつっこむ。
「そりゃあもう。偏執的で変態的で溺愛しまくったからな。俺の創造主サマは」
不満がないと言えば嘘で、たとえばあの、形なき創造主に文句を言えるなら、味蕾のデータ構築をもっとちゃんとしろ、とか鼻がききすぎて実は苦労している時もあるんだとか、いろいろいろいろある。
最たるものとしては。
あの「男」が常々自分に言っていた「愛」というものを、本当に理解していたのかどうか。
いつか膨張し死んでしまう太陽の代用品を作っているという人類の、ニセモノの太陽のように振りまくだけ振りまいて実のところは模倣でしかないレプリカに、似ていて。
エレクトロはそれを無償に尋ねたい時がある。
特に、こんな良く晴れた空の下に居るときには。
「快晴。快晴」
「…チクショウ、アミ早く帰ってきやがれ」
エレグラアミ3 【不実な飼い主】
オレやアーミーの身上は至ってシンプルだ。なにせ、量産品のイレギュラーが勝手に自我を持って逃亡したっていうクチで。語ってしまえば10秒で終わってしまうストーリーだからだ。オレはそう。アーミーはもう少し違うかもしれない。
でもアイツは違う。オレは言葉にしたことはなかったけれど、アイツがオレ達とは違うことに気づいていた。
アーミーはまた別口でアイツの不自然さに気づいた。エレクトロという名前の量産品が、データの海のどこにも存在していないことに気づいたからだ。
「戦略兵器の一端であるグラビティやブレインタイプのオレのデータがあるのは、わかっている」
「所詮、オレらは替えの利く銃のタマみたいなもんだもんなーリロードすればオッケーって感じ?」
「もう少し金がかかっている」
「…否定ぐらいしろっての」
愛用のノートパソコンには、アーミーの調べ上げた文章がずらずらと並んでいる。なんとなく見たことのある数値もあるなと思ったら、オレの生体データまで拾い上げてきたみたいだ。
「でもエレクトロのデータは一切見つからなかった」
「全然?ちっとも?100パーセント?」
「破棄、抹消、消去。どういう手口なんだか、どこにもデータがない」
アーミーはメットの物騒な針をいじりながら空いた手でキーを叩く。
「こないだの心臓騒ぎは?」
「あれは…データのうちに入らない。直感…というより啓示か、それとも悪魔の囁きに近いかもしれない」
「ケイジ? アクマ? おまえが言うかよ!それ!」
エレクトロが小さい時に移植した奇形の心臓を、生きたまま保存されてたっていうはまだ記憶に残ってる。アイツは生命維持装置を外して、永遠に自分の心臓とおさらばしていた。
「とにかく!アレは数に入らない!」
「ふふーん。自分の手に入れてないデータは認めたくねーんだな」
アーミーにギロッと睨まれたけど、オレはそれくらい屁でもない。
「…今の段階で言えることはだ」
乱暴にパソコンを切って閉じたアーミーはどこかで予想していた言葉を紡いだ。
「エレクトロは一点モノだっていうことだけだ」
「そういえば、アイツ言ってたよな。『俺のそーぞー主は偏執的で変態的で』…とか」
「偏執的で変態的で溺愛しまくった、だよ」
「げ、エレクトロ」
「感心しないなぁ。本人のいないところでそういう話」
俺に聞けば一番早いのに、と的はずれなことをいいながらオレらに近づいたのは他でもないエレクトロだった。自分の晩飯らしい乾電池とオレとアーミーの飯らしい肉を抱えている。
「聞けば話すのかよ」
「まぁ、プライベートなことだから限界はあるけど?」
「俺が知りたいのはプライベートのほうだ。的確な情報が得られないなら本人に聞いても意味はないな」
「そーそ。けっこうエレクトロ、はぐらかすしよー」
「…ちぇ。おまえら、こういうときだけ仲がいいよな」
「こういう時だけな」
言葉のワリに笑ってみせたエレクトロは細い乾電池をガムみたいにかじる。そうすると味のしみでる骨だか海草みたいに電力がちょっとだけ取れるらしい。本当、アイツの体は不思議でいっぱいだ。
「俺としては解体してみたいくらい興味がある」
「うっわ、解剖じゃなくて解体だってよエレクトロ」
「…そーれーはやめといたほうがいいんじゃないかな。いくら放し飼いされてるからって奴さんがいつ飛んでくるか俺にもタイミング掴めてないから」
なんせかれこれ10年ほど見てないし。
創造主で飼い主で放任主義?ますますわけがわからん。
「消息不明なのか」
「んー。どっかにはいると思うけど、マシンフェアリーより遭遇率低いよ、きっと」
まるで珍獣扱いだ。自我をもつ機械のフェアリーより会う確率の低いニンゲンってなんだ?
「それこそ『下』に住んでる奴らなみに」
「人外かよ」
「…ありうる」
アーミーの言うことももっともだ。だってエレクトロを一点もので作るような奴がまともとも思えない。
下、というのは地上から何層も何層もつくられたゲートとエリアのことだ。もともとは人間用の避難シェルターっていうハナシだったらしいが、アーミーが調べたところ、途中で計画はおじゃんになって、また別口のモノが造られたらしいとか。バケモンが住んでるとか、捕らえれてるとか、逆にあんまりにも桁違いででかい力を抑えるためにそこにいるんだとか、色々憶測だけが飛び交ってる。
とにかく『下』に住んでる連中、というのは自分が住んでる階層から出ることはあんまりないけど、つついたら飛んでもない奴らだっていうのは聞いたことがある。そこをヘイブンと呼んだり、アビスと呼んだり、インフェルノだの奈落だの、リバースバベルだの色々言う奴らはいるけど確かなことは全然わかってない。
とりあえず第一下層に住んでるのは、フェアリーくらいなもんだっていうくらいだ。
「まあいずれわかってくるんじゃないの」
「ずいぶん曖昧だな」
「だって自分自身、今ここにいる理由も、実はよくわからないんだよね」
自由になりたくて逃げ出したってワケじゃないらしい。
「まさに、神のみぞしるってね」
不思議な奴だが、こいつをつくった創造主とやらも、かなり不思議な奴だということだけが今日、わかった。