「葉取2」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「葉取2」(2006/07/26 (水) 03:19:44) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
葉取1 ヒロシマリアン葉佩
葉佩が広島出身なら喋りも…そういう妄想です。
限りなく海神仕様な広島弁ですのでツッコミなしでDON!
「鎌治は背ぇが高けーけ、ええのー」
「そ、そうかな…」
「おー高いとこから見下ろすん、気分よぉないか?」
屋上から下を見下ろす感じじゃろか?と葉佩は首を捻ってみせ、背が高いのも大変なんだよ、と鎌治は返した。
「よく桟とかに当たるんだよ…けっこう僕がぼーっとしてることが多いから、今でもたまに教室に入りざまに、ほら」
前髪を少しわけてみると、鎌治の白すぎる額にうっすら赤い痕が見えた。相当強く打ったわけではないらしく、内出血には至っていない。この肌でさらにそんな痛々しいものがあったら、見とるこっちが痛いと葉佩は思う。
「あーあおじにはなっとらんけど…痛そう」
「慣れちゃったよ」
「じゃけど、羨ましいな。鎌治じゃったら、バスケのリングにたうんじゃろ?」
一瞬。鎌治の動作が止まる。耳で音を思い出すようにすると全ての動きが滞るのは鎌治の癖のようなものだった。
「鎌治? おーい、どうかしたんか?」
「…あの、はっちゃん…」
「なん?」
「ええと…たう、って何?」
それが動作をしめす言葉であろうということは推測できる。かかる対象は「バスケのリング」。つまりはバスケのリングに対して鎌治には可能な動作を示している。それは前後の語意で計ることができた鎌治だったが、肝心の言葉でひっかかる。
すると葉佩が「すまんすまん、フツーにわからんよな」と笑って謝った。
「いや、あの僕が知らないだけかもしれないし…っ」
「そりゃ知らんて! 前に甲太郎にもわからんて言われて直そうと思っとったけどつい出てくるけんなー。たう、いうのは届くっちゅう意味な」
「届く?」
「そうそう、こーやって」
葉佩が鎌治の肩に手を伸ばし、ぽんと軽く叩く。
「なんかに手が届くのんを、たう、って言う。手が届かん範囲じゃと、たわん」
「ええと、だったらさっきのは…僕だったらバスケのリングに手が届くって言う意味?」
「そ!一つ賢くなったじゃろ、広島弁講座!」
「…じゃあいつか、僕からも教えてあげるよ」
「ん、待っとるけ!」
こんな感じー…?嘘っこになったら御免。
たぶんヒロシマリアンな葉佩はカープ狂いで部屋にはポスターとかサインボールとか転がってるかもしれない(笑)
葉取2 夜の底
夜に潜む闇は深いけれども、すべてが人の心に牙を剥き襲うわけではない。
なぜなら眠りの腕に誘うのは紛れもない優しい闇なのだから。
「え、飲み会…?」
今夜も探索なのだろうと思いながら寮の玄関口にやってきた鎌治に、葉佩はどんと紙袋を押しつけて「今夜は飲み会すっぞー」と言った。
「は、はっちゃんお酒なんてどこから…!」
もちろん校則で禁じられている。教員とてバーで飲む以外のアルコール類は生徒の目につかないようにと言い渡しされているほどなのだ。
けれども鎌治の腕の中では一升瓶やら缶チューハイという文字の躍ったアルミ缶がぎっしり詰まっている。
「一升瓶はまりりんがくれたんだぜ! なんか調合とかで使えって言われたんだけどコレ、いい酒だからさ!せっかくだから今日は探索休んで鎌治と飲もうと思って!」
同じように真理野から振る舞われた一升瓶で男子寮のいくつかは酒盛り状態であるらしい。
「え、じゃあこの缶のほうは…はっちゃんの!?」
「おうよ、トランクの中にぎっしり詰めてな! 空港出てすぐに酒屋があってさ、オレ外国暮らしが長かったもんだからあんなにいっぱい缶の酒が並んでるのがすごい新鮮で買っちゃったってわけ」
買っちゃったって…ひとりで飲むの?この量…
おそるおそる覗いてみたが、まるでパーティーでもやらかすくらいの量だ。
「じゃあ寮に戻ったほうが…」
「ダメダメ、今日は鎌治と夜のランデブー! 騒ぎたい奴らは寮にいるんだし、俺達はもっと静かなところで飲もうぜ」
「ど、どこで…?」
「廃屋街」
暗視ゴーグルもないのに、葉佩は悠々と廃屋街の奥へ奥へと進んでいく。
「は、はっちゃ…」
墓地とは違う暗がりが宿り、うち捨てられた事物ひとつひとつが自分たちを見つめているような気にさせられる。うっかりすると先をゆく葉佩の大きくはない背中を見失ってしまいそうで、慌てて鎌治も追いかける。
「こっちこっち、墨木がさーいい場所教えてくれたんだ」
GUN部の野外演習に使われるだけあって障害物の多い廃屋街をまるで自分のホームグラウンドであるかのように軽い足運びの葉佩。きっと何度も訪れているに違いない。
闇には未だ慣れない。いや、慣れるという感覚ではなく親しんでいた記憶やその感触を思い出すことができない。姉と蛍狩りにいった幼い頃とてあるし、ピアノを弾く時はむしろ夜を好んでいた。
じゃり、と靴を擦ったゴミを避けながら、まっすぐに伸びた背中を見つめながら鎌治は思う。
この暗がりにも通じた闇に触れてから一切の感覚を喪っていたあの頃から自分はなにひとつとして変わっていないのではないかと不安になるのだ。変わりたいとあがきながら、実はけっして前には全く進めていないのではないか。あっという間に自分は…
(僕は君に置いていかれているんじゃないか…)
杞憂であってほしい。ただの物憂さなら晴らすこともできる、と空元気を振るって脚を動かしていると葉佩の背中が遠ざかるのをやめてぴたりと止まった。
「ここだ、ここ」
風雨に晒され、崩れた家屋のど真ん中に出た。倒壊一歩前のそこは屋根からぽっかりと大穴があき、弓を張った月がやわらかく光を零していた。
「この時間だと灯りいらずなんだ。フーリューだろ」
暗い道を歩くのに暗視ゴーグルを用いなかったのはそのためだとも、葉佩は手頃な瓦礫に腰を下ろして言う。
だが鎌治は腰を下ろすよりもその、静物画を見るような風景に目を奪われていた。廃墟の中で満ちているのは、相対する闇と光。だが調和したそれらは混ぜあい、とけあい、ひとつの光景を作り出している。
「すごい…ね、はっちゃん…」
「ん。オレさ、みんなと騒ぐのも嫌いじゃないけど、こういう静かなとこにいるのも好きだからさ」
静けさを乱さない鎌治と一緒なら、もっといいと思ったんだ。
「はっちゃん…」
「みんな連れてくるとやかましいからさ、鎌治とオレだけの秘密の場所な」
あ、墨木にはバレてるけどアイツも言わないし、とつけたし、鎌治に持たせていた袋から缶を二つほど取り出し、ひとつを自分にもうひとつを手渡す。
月に光る缶はもっともらしく描かれた果実の絵もひとつの芸術品のように照らす。
人工の光も遠く、頼りない光の中で始まってゆく酒宴。
鎌治は自分すらも、静寂な世界の一部になっていくような錯覚を覚え始めていた。
end
~後日談~
「はっちゃん…あのね」
「ん?」
「僕…実は、あんまりお酒が…飲めないっていうか…」
「いいよ、オレが飲みたいだけ飲むから」
「いや、あの、ええと…飲むのも初めてだから…」
「え? マジで? 一滴も?」
「うん…なんていうか、小さい頃にすぐ回っちゃうから姉さんがあんまり飲んじゃダメだって言ってくれて…それからは全然…」
「か、鎌治! 飲め! いっぱい飲め! たくさん飲め!」
「え、ええ!? はっちゃん…っ」
「オレが許すから飲んじまえ!! 看病はオレがするから!」
シタゴコロ丸見え葉佩がそこにいる(笑)