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こたうじ22 「兄者、盃が逆さだぞ」 そう氏照が指摘したのは、ある昼下がりのことだった。 氏政の文机に飾られている、舶来品の瑠璃盃は海外貿易に熱心な北条家にもたらされた一式。氏政はそのいくつかを弟たちに分け与えており、氏照もその一人だった。 「このままで良いのじゃ」 本来天を向くはずの口が伏せられた妙な形を、氏政はそのままにしておくつもりらしい。 「良いのか?」 「良いのじゃ」 困惑顔の弟を、氏政はかっかと笑い飛ばした。 「おまえも忍びゆえ、毎度毎度儂の元に顔を出してはまずかろう」 忠実な忍者の青年は風魔忍の長だ。なにかと忙しないだろうに、日に一度は顔を見せにくる。時折そこに疲労の陰や血の匂いを感じると、氏政はわけもない申し訳なさを覚えていた。たとえそれが臣として当たり前であっても。 「おまえが無理をせずとも、我が栄光の北条家は不滅じゃ」 だから体をいとえと言っても聞かない。 「そうさの、ではこうしよう」 氏政は文机の洋盃を逆さにした。瑠璃のきらめきを気に入って手元に置いている舶来の器である。 「年のせいかのう、どうもこの形が正しいように思う」 「……」 「小太郎、これで良いのかの」 ふるふると首を振った青年忍びは近寄って、盃を両手で丁寧に元に戻した。本来のように。 「じゃが儂は忘れっぽいのでの、明日からもこうしてしまうじゃろう」 忍が戻した盃を氏政はまたひっくり返した。 「小太郎、毎日儂に顔を見せんでも良い。ただ明日もおまえが健やかならば盃をひっくり返しにくるのじゃ」 それから毎朝、盃を逆さにすることが氏政の日課になった。大抵氏政が眠りについた夜のうちに、それはまた、正されているので、それを確認した氏政は皺を深くしながらまた、盃を逆さにするのである。 「逆さにしても趣があるじゃろう」 「そうか?」 「おぬしは風情がわからん奴じゃの」 氏照はじゃあ儂もひっくり返してみるかと呟いた。 盃の口が天を向こうと地を向こうと意味はない。そこにある秘密を知っているのは、氏政ともう一人だけである。 氏照の持ち城、八王子城からベネチアングラスが出土したというのを資料で発見。言葉のいらない伝言ゲームをじっちゃんとこたがやってるといいよ!

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