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さゆき4 「冷えてきたなぁ」 肌を刺す冷気が心地よい。なまぬるい液体が冷えていくのは良いのだが乾くと不快感が強くなる。 血を浴びても血に酔うな。 そう諭したのは老いてもクナイの切っ先を毛ほども震わせることのない老爺だった。 「俺はむしろ血を浴びるほど虚ろになっていくんだがなあ」 掻き切った命の水がこぼれるように、ぽたぽたと己の内から何かがなくなってゆき、その度に体が軽くなる。 「これも危ない兆し、なのかね」 虚ろになりきった己を眺めるのも悪くないと思えるのだが。 ふと研ぎ澄まされた耳が遠くの合戦の音を拾う。 「…今日もやるねえ」 人と剣戟と馬のいななきにまじり轟くようなほむらの嵐が聞こえる。 「ああ、そうだなあ」 黒の影が大鳥の形に紡がれ、その足に捕まりつぶやいた。 「旦那が腹冷やすと後が面倒だな」 この冷気は良くない。 紙縒より細く軽い意識をつなぐのは、空を朱に染め、地をやきつくさんとする業火か。

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