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オリジナル 悪魔9 【第六仮定】 私は素早く移動することは得手ではない。鳥などに比べれば脆弱な羽を風に乗せながら動かすため、優雅だと賞賛はされても俊敏ではない。主は悠久の生をいかに長く飽くことなく過ごすかをよく考えるので火急の知らせ以外は全て私に任される。無駄を惜しまれる他の君には苛立ちを生むらしいが、無限に近い命数の主にとってはそれもまた暇つぶしのひとつにすぎないのだ。 《さて、何処に居られるか…》 私を主に推してくれ、全滅した群の中から私の宿った卵を拾い上げた、親とも言うべき相手。双方が認めたがらないが、主の寵愛する若き悪魔は… この身から落ちる黒い鱗分が人に麻薬のごとき悦を与えることから、「黒楽蝶」と名づけられた私は羽をはためかせた。 虫の本能にとらわれた者でも私には手出しができぬ。我が羽には我が一族の戴く模様の他に、かの君の所有と、かの君の使いである印が黒い羽の中で鮮やかに織り込まれている。 この封蝋と等しき印がなければ早晩そこらの虫に食われかねないのだ。 『俺は生まれたばかりの、位も持たない最下層の悪魔にすぎない。俺の印をおまえの羽につけたところで意味はあるまい』 羽化したばかりの私に花蜜を与えながら悪魔はそう言った。 『だからおまえを我が主の僕に推そう。主の印を持てば、おいそれとおまえを襲う馬鹿も居まい』 見込み通り、典雅な趣を愛する主は悪魔から献上された私を伝令として側に置くことに決め、この羽に複雑かつ美しい、主の通り名をはらんだ印を刻んだ。 主の印を戴くことにより私は同じ黒楽蝶より長い生を得ることとなった。悪魔は私を献上した頃から著しく力をつけ、周囲に主の変わり種の側近としての名も馳せるようになるのも間近で見ていた。 私は少し後悔している。選択の余地はなかったとはいえ、もしもあの時献上を拒み、主ではなくあの悪魔の印を刻むことができたならば、育ての親とも慕うかの悪魔の傍よりもっと近くにいられたのではないか… ああ、繰り言にすぎぬ。しかしそうした思いには常々捕らわれる。 主は気づいておられるやもしれるが、何も仰らない。時々、かの悪魔への伝令を私に任せられるだけだ。 蛹より幼く、醜い芋虫であった頃、私はかの悪魔の頬を伝う涙を啜ったことがある。空腹に耐えかねた上での行いだ。 悲哀より流れる血の色の涙は甘露のような味がした。 私は遠い遠い記憶を楽しみながら、あの涙の匂いを追った。
オリジナル sing for me1 ステージの上は真っ白だった。 照り映える舞台下の観客の姿は波のようにさざめき、一心に俺達の名前を叫び、リズムを取り、一体となる。 ライトの真ん真ん中で俺は同じように真っ白だった。 ステージにあがるのは好きだ。 そこには、俺ではない俺が歌っている…… 【現在インディーズ界で急上昇中なのは、4人組の実力派バンド・【イノセント】だ。 メンバーは作詞とドラムの由規(ユキ)、男も惚れる重低音ベース・紅一点の藍(アイ)、ギター・作曲を手がける天才肌、一清(イッセイ)、そして一清自らが見出した2代目ヴォーカル晶(アキラ)。 無口でクールな晶が歌う最新曲【ハイリスク】は、イノセントを脱退した前ヴォーカル貴喜(タカキ)と入れかわり、晶を本格起用した意欲作。深夜ラジオでのリクエストがきっかけとなってブレイクしたナンバーをひっさげた新生イノセント、今後の期待が高まる……】 そんな記事と、紙面の半分を埋めつくす写真を俺はじっくりと眺めた。 写真ってすごい。映したものを100パーセント写しとることより、100パーセント偽りであっても本物のように見せる、その真実味に俺は驚く。 いかにもドラマーといった感じのがっしりした体の由規とそれによりそう藍はどちらかといえば引き締まった固い顔、でもギターを抱えた一清は微笑すら浮かべている。 そして三人の真ん中にいる、やや小柄で痩せた男は真横を見て顔を逸らしている。 必死で訴えたのが聞いて貰えたらしい。俺は、そこだけを確認してホッとしながら雑誌を閉じかけた。 「あーなんで閉じちゃうのよ」 「っわ!」 後ろからにゅっと伸びた手に雑誌を奪われる。シンプルだが有名ブランドの指輪が薬指に光る、左手。 雑誌を奪った手がしなやかで強いのは、顔のつくりに影響されるんだろうか。はっきりとしたアーモンド型の目と描く必要もないくらい形のいい眉。意志の強そうな、……実際俺から雑誌を奪った藍は、誰よりも頑固で、ひとりの例外を除いたら意見を翻るなんてことは滅多にしない、そんな強い女の見本みたいな性格だ。 「もう読んだんなら見せてー何ページ?」 「……真ん中くらい。ヨシさんは?」 「煙草。なんだかんだ言って超気にしてるわよー朝からそわそわしてるんだもん」 知らないよ……朝から晩まで一緒にいる藍達じゃないんだから。 俺のささやかな声も聞かず、藍は雑誌を矯めつ眇めつし、「きれいに撮れてるね~」なんて言う。 「あんたのリスっぷりも、うまく隠してもらってるじゃん?」 「……リスって」 「カメラが真っ直ぐ見れなくて横向いちゃってる奴はリスでいいわよリスで」 藍はそれきり俺を無視して雑誌を読み出す。 俺達が集まるのはいつも、一清の部屋。煙草を吸う癖に壁紙とかが黄色くなるのが嫌いで自室では吸わない一清のために、チェーンスモーカーの由規は外で携帯灰皿を持って吸うハメになる。 「イチ、どこ行ったかあんた知ってるんでしょ?」 「……一時間くらい前に携帯持って出てったきり」 「じゃあ、結果来てるのかな」 藍のシャギーが入った髪が軽くさらっと揺れる。藍はうっとおしいって切りたがるけど、由規が長い髪が好きだから切らないでいるっていうのを俺は知ってる。 「それにしたって……」 長い。時間が経てば経つほど、俺の不安はどんどん大きくなる。 「放りだすわけないでしょ。あのイチが」 「でも藍」 「信じろ……って言っても、リスのあんたじゃ形になるまで信じないか、もうちょっと大きく構えて、待ってなさいよ」 大きく息を吸って、吐いて。 それはステージにあがる直前で上がりまくる俺を宥める、藍のいつもの言葉だったけど、今回は通用しなかった。 帰ってきた一清の顔を見た途端、俺は飛び出し自分の部屋(と言っても一清のうちだから俺の部屋じゃなくて間借りさせてもらってる部屋……どうでもいいや)に、飛び込んで布団被って耳を塞いでしまったのだから。 その様を見て、一緒に帰ってきた由規までもが俺がリスだという藍の主張を受け入れた事実を知るのは、もう少し後のこと。 「晶」 ベッドで布の固まりと化した俺にかかる低い声。俺なんかよりずっと歌うのに向いてると思うのに、その声の主が奏でるのはギター。時々ハモリで低音をカバーしてくれる声は、今はとても静かに俺に降りかかる。 「あーきら」 俺はベッド。俺はシーツ。俺は繊維。俺は綿。だがどれだけ念じても俺はモノにはなれない。 「結果、聞きたくないのか?」 その声を……一清の声を聞き、意味を汲み、考えてしまう。俺はモノにはなれない。 「決まったよ」 「……っ」 「聞きたくない?」 一清は俺を誘うかのようにやわらかで優しい声を紡ぐ。 「Rレコ、リリースは秋」 「っ」 Rレコこと、Rレコード。インディーズでも特に厳選されたバンドを確実にセールスさせる、音楽をかじってるものの憧れのレーベルの名前に俺は震え上がる。 「ドラムは由規、ベースは藍、ギターは俺。ヴォーは?」 誰だと思う、晶。 「俺らのヴォーカルは誰だと思う?」 応えようかどうしようか途方にくれたその瞬間に布団が剥ぎ取られた。 「俺の曲を、由規の詞を歌うのは晶。おまえだよ」 布団を投げ捨て笑う、一清。雑誌の人形のような微笑とは違う笑顔。 「俺……」 「そう。小心者で臆病で根暗でこっちがウツになるかキレるか待ってるような小動物で視線恐怖症で上がり性のくせにステージに立ったら性格変わる二重人格野郎」 「……」 そうか、やっぱり俺はそう見られてるのか……。そこはかとなく罵倒された気分になってうつむく。さらにかかる言葉がどんなに痛くても受け入れられるように。 「でも俺の曲を歌える最高のヴォーカル」 脱色してパサつく俺の髪を撫でた。 俺は顔をあげていいんだろうか。 俺は必要とされているだろうか。 俺は……捨てられないだろうか。 俺は一清を信じていいんだろうか。 「信じろよ。絶対誰もが欲しがるアルバム、一度聞いたら忘れられない曲、作ってやる」 「……キヨ」 「行こう。由規も藍も待ってる」 その声は絶対のように俺を導く。 一清が俺をいらないと言う日まで。 俺は一清についていこうと決めた。たとえどんなことがあっても。 end 唐突現代バンドもの。楽しかったv 根暗小動物ヴォーカルと抱擁ギタリストの進みそうで進まない恋模様です。ドラムスとベースは婚約済み恋人同士。現実問題とか雑誌とか芸能関係はサッパリですが、悪魔同様オリジとしてぼちぼち長く書く予定。 一清と由規はそれぞれ<イッセイ><ユキ>という芸名ですが、本名は<イチキヨ><ヨシノリ>という雅かつ普通な読み方です。そんなわけでメンバーは一清をイチとかキヨとか呼びます。由規はみんなヨシノリ呼び。 一清は晶のことを「俺の小鳥ちゃん」と身内に吐くくらい大好きです。

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