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葉皆9 シンキングタイム2 「甲ちゃんの幸せって何ですか?」 「…なんでそんなのをおまえに教えてやらなきゃならないんだ」 「えーそりゃだって、誰にだって幸せになる権利があるでしょ?野良猫だって幸せになりたいじゃん」 「……」 「そして野良猫と甲ちゃんを幸せにする義務が俺にはある!」 「人を猫と一緒にすんな!」  葉佩の脳内回路はちょっとおかしい。
葉皆10 はろうぃん 「トリィーックオアトリーット!」 扉の向こうにはカボチャがいたので即座に力一杯閉めた。 「ちょっ甲ちゃん!甲ちゃん!俺だよ俺!なんで声でわかんないのー!?」 「わかってっから閉めたんだろうがー!」 どうでもいいことに全力投球、パンプキンヘッドこと<宝探し屋>葉佩九龍がぎゃあぎゃあ喚く。あまり騒ぐのもうるさいので渋々皆守甲太郎は部屋にいれてやった。 「甲ちゃん、今日はハロウィンだよハロウィン」 「だからどうした」 「お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ!」 「帰れ」 「甲ちゃん~!」 うわぁんと泣きついてきた葉佩を素早く避ける。ご丁寧に黒いマントまで着込んで、怪しいことこの上ない。 「ケチ、夕薙先輩はお菓子くれたのに!」 「……大和はアメリカ出身だったか」 アメリカで言うところハロウィンは完全な子供のための祝日で、生まれがそちらである夕薙はフランクにつきあってやったらしい。ズボンからじゃらっとキャンディーを出して見せびらかす葉佩に皆守は溜息を隠せなかった。 しかしあの夕薙がファンシー極まりない飴だのチョコだのを葉佩に持たせたというシーンも想像しがたい。 「で、甲ちゃんお菓子は?」 「持ってるわけないだろう」 「お菓子くれないとイタズラしちゃうぞ」 葉佩が二っと笑ったので、皆守は鼻で返す。 「ふん、どうせおまえがやることといったら、校舎の窓ガラスにカボチャの絵でも書くぐらいだろ」 「残念、それは去年やった!」 「去年!?」 「いやーロゼッタのアメリカ支部の連中はノリが良くて、支部長室をハロウィン色に塗っても全然オッケーだったんだよね」 ロゼッタ協会像がどんどんと壊れていく。探求心の赴くまま己の命を綱渡りに秘宝を追い求めるハンターの姿がゴーストとジャック・オ・ランタンに埋めつくされた。 「天香じゃ何をしようかな」 「言っておくが手伝わないぞ」 「えー」 何故あからさまに残念そうなのか。 「そう言っちゃって俺についてきてくれるのが甲ちゃんでしょ」 でもその前に、と葉佩はコホンと息をついた。 「甲ちゃん、トリックオアトリート」 「んなもんない」 「じゃあ、いたずらするよ」 「え、……九ちゃん、ちょっと待て」 「待ったなし。お菓子をくれなかった甲ちゃんが悪い!」 「きゅ、九……!」 翌日。 天香學園では庭木がゴースト型に剪定され、小型カボチャのジャック・オ・ランタンが寮の一室一室ごとに置かれ、さらには礼拝堂の荘厳な緑青の屋根が鮮やかなオレンジに染め抜かれて朝を迎えた。 「……阿門さま、修繕費は」 「……もういい」  ランタンに入れられていたミルクキャンディーを前にしながら阿門は低く低く呟いた。

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