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オリジナル 悪魔5 【凶】 「今日は釣りに行こうか」 のほほんとカップをソーサーに置いて、彼は言った。 「最近もめ事が少ないから、湖まで行けるようになったんだよ」 空には白銀と白金の月が昇る。人間の刻限で言うと、昼下がりだ。 溜息を隠さない来客者に、彼は釣りは気に入らないかな?と首を傾げてみせた。 「なんでおまえはそう地味なんだ」 「ええっ、地味なのかい僕は!?」 派手であってほしい。少なくともちんまりとはしてほしくない。 炎獄の魔王と謳われる居城で、その主はいささか地味すぎるほどに地味な悪魔だった。趣味が釣り。盆栽、書道。最近は茶道もたしなみ始めたとか。 「隠居暮らしを楽しんでる魔王なんて聞いたことがないね」 配下数万を従え、青い炎で壮麗な城を彩る、炎獄。その気性はかつての天使との大戦では怖れられるほどに冷酷非情、捕らえた天使の皮を剥ぎ、それを同胞に喰らわせ下級の魔物に下賜してやったり宴の出し物と供した。 その大戦から百余年。炎獄の王はすっかりのほほんとした楽隠居魔王になっていた。 「だってそうそうギスギスしていたら僕の気が休まらないじゃないか。僕は今が平和でいいと思うけど」 炎獄の悪魔は再び紅茶をとりあげながら言葉を返す。 「君こそ暇つぶしに何やら面白いことをしたっていうじゃない」 「ああ、あれのことか」 「伴侶もいないのに子造りだって噂になっていたよ?」 「子供ではないんだが」 「知っているよ。君は自分しか好きじゃないもの」 その言葉の響きは責めるようにも憐れむようにも聞こえる。 「あれの魂は興をそそる響きをしていてな、末路を見たくなった」 己の無力に慟哭し、堕ちてもなお力を求めながら、自ら血の涙を流す魂。来客者はそれを面白いと思い、養い親となった。 「今度連れてきてくれないかな。釣りでもしながら話をしてみたいよ」 「しばらくは戻らないな。あれは今、必死に大きくなろうとしているから」 「君こそ人柄がまるくなったんじゃないかな」 「いいや。変わらず禍々しくいこうと思っているよ」 でなければ救われるべき魂を堕落させ、わざわざ悪魔へと生まれ変わらせはしない。とある悪魔の養い親は、やはり非情な悪魔の王だった。 「ああ。いい天気だなぁ。本当に釣りをしないかい?」 「釣れても魔界の怪魚は食うつもりはない」 炎獄の魔王の居城でのこと。
オリジナル 郷愁2 公園 「あー……」 缶コーヒー片手に休憩を楽しむため、ミシモは地下から地上にあがっていた。紙屋町西という電停を中心とした一角は繁華街というほどでもないが、八丁堀駅に並ぶ福屋、天満屋に続いて、天下の名店そごうがある。さらにはその近くに数年前、ハンズという日曜大工専門店みたいな大きな店ができたがミシモはまだ行ったことがない。 ビジネス街とショッピング街の顔を持つ市内でも賑わうところ。ここで休もうとするならば、市民球場の向かいで緑の豊かな原爆ドーム周辺のベンチがいい。整備されて観光の目を意識された公園はいささか人の出入りが多いものの、日の光をいっぱいに浴びる公園ではミシモが見たくないアレやソレやの気配が地下に比べて格段に少なかった。 「ミシモさんっ」 犬ころのような弾んだ声を出して飛びついてきたのはミシモの主なガード担当区シャレオの地縛霊ヨシタだった。シャレオの地上出入り口の公園の入り口はぎりぎりヨシタが離れていられる範囲らしい。明日はもっと遠くに休憩しにいこうと決意するミシモタガヤ。 「なんじゃヨシタ、上に出てこれるんか」 「愛の力っすよミシモさん!」 「あーほうかほうか」 「聞いてないし!すっごく聞き流してるし!」 このやけにハイテンションな地縛霊ヨシタは何をどうトチ狂ったのかミシモに懸想しているらしい。腕も体もスカスカな幽霊が、生きている上でちょっと目の『見える』ミシモに愛を囁くのだから茶番以外何者でもない。だがヨシタは少なくとも本気だ。 そこがミシモの頭痛の種でもある。 「地縛霊ならはよう消えるなり悪霊なりになりゃええんじゃ」 「ひっでぇやミシモさん、俺、悪霊なんかになりたくもないし自分が何かもわかんなくなるような霊にはなりたくないよう」 そういった類は総じて暗く、地下のシャレオに流れこんでくる。広島駅行きと己斐行きの電車が分かれる十字路(己斐行きは西の紙屋町西。広島駅は文字通り広島駅を目指し紙屋町東へ運行する)、この形に添いながら真下を中心に営業しているのが地下ショッピングモールシャレオ。小じゃれたショップが軒を構えて主に女性客をターゲットにしているモール街はミシモにとっては幽霊さんたちの巣窟なのだ。 ちょっとばかり勘の鋭い人間なら「ここは良くない」だのと言い出すだろうし、鈍い人間でも「ちょっと空気が澱んでる」とか「方向感覚が狂わされる」とか言うかもしれない。 まあ後者は本人が方向音痴でなければ、の話し。 「休憩ですかーミシモさん。いいですねぇ。心の洗濯って奴っすよね!こういう緑の多いところってマイナスイオンっていうんですか?そういうの感じますよねぇ!」 「黙っとれ。おまえがおるだけで疲れるんじゃ」 えー!と抗議する地縛霊を放っておき、ミシモは缶コーヒーを飲み干す。中年男が好むにしては甘ったるすぎる「牛乳屋さんのコーヒー」はミシモの大好物だったりした。 もう店名がいっぱい(笑)牛乳屋さんのアレって紙コップ限定だけかもしれませんが、缶コーヒーがあったら飲んでみたいという欲望でw

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