Count.1『邂逅から始まるカウント・ダウン』

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#navi(無価値へのカウント・ダウン) 【邂逅から始まるカウント・ダウン】 ---- 世界は「多様性」に満ちている。 誰が作ったのか、誰が始めたのか……それを知るものはいないが、ここには無限数の「世界」が存在する。 同じような世界、異なる世界……そういった無数の世界群が、どこまでも立ち並ぶ。 どれ一つとして同じもののない「世界」は、その内部に無数の「個性」を持つ存在――「生命」を抱え持つ。 彼らもまた、どれ一つとして同じものなどない。 彼らは干渉しあう。互いを愛し、互いを憎み、互いに笑い、互いに悲しみ、互いに喜び―― 干渉しあうことによって、彼らの世界は動いていく。彼ら自身が一秒たりとも「同じ存在」に とどまってはいない。己以外の何かからの影響を受けて、自分自身を変えていく。 「孤独の虚数空間」はそんな彼らを羨んでいた。 「孤独の虚数空間」。 連続する世界のはるか終端、「正と負の収束」「シュレディンガーの地平線」と呼ばれる 世界群の途切れに、「孤独の虚数空間」という世界が存在する。 世界は「多様性」に満ちている。だが、例外もある。それが――「孤独の虚数空間」と呼ばれる世界だった。 無限にあらゆる因果から隔絶された世界の終端には、あらゆるものが到達できない。 物質も、波動も、時間も、概念すら届くことのない無限の地平線。世界の意思以外は、何者も。 人が自我を持つように、世界もまた意思を持つ。それは有機体や無機物が持つ類のものではなく、 確率と因果が産み出す自我だが、紛れもない意思だ。世界もまた、喜びもするし悲しみもする。 「孤独の虚数空間」はその名が示すとおり――無尽蔵の孤独感を抱えていた。 あらゆるものから隔絶された世界。そこには、意思をもつもの――生命が活動できる環境がない。 「孤独の虚数空間」の内にあるのはいくつかの岩の塊やガスの塊、燃え盛る核融合反応と どこまでも転がる暗黒物質だけだ、「多様性」や「個性」とはまるで程遠い、百五十億年もの長きに 渡り何一つの変化も見せない「空虚」だけだった。 「孤独の虚数空間」は終わることのない孤独感と手に入らないものへの羨望に身を焦がし、 刻一刻とその身を変えていく世界たちを遠望しつづけていた。何万年も、何億年も。 彼――便宜上の表現だが――はその状況にも、変化が訪れるとがないと諦観していた。 『なんとさびしい世界であろうか』 彼が生まれてから何億年――あるいは何十億年だろうか? 誰も訪れるはずのないこの世界で、 彼は確かに誰かの「声」を聞いた。 戸惑う彼をよそにその声は、興味がまるでないような、それでいてひどく気になるような 声音で語り続けた。 『これはいけない』 『世界は変化しなければいけない。多様性に満ちた、独立性あふるるものであらねば』 『この世界は異端だ。あるべき形で生まれず、生まれたときから今のさまだった』 『生命は与えられた生をまっとうしなければならない。持って生まれた命の形を、  途中で変えることはできない。世界も然り。だが、生まれなおすことはできる』 ありえない現象を前に混乱していた彼だが、その一言だけは意識に残った。――生まれなおす? 『そうだ』 『今の君に独創性を、個性を、多様性を生み出すことはできない。だが、そういったものを  「生まれ持って」生まれなおすことはできる。そう、やりなおすことができるのだ』 『君もまた、あるべき姿になることが――できる』 生まれなおす。世界の新生。それはどんなものにも起こすことのできない、不可能の極致の はずだった。それをこの声は、できるというのか? 『そのとおり』 『私にはそれができる。私は――世界を産み落とす力をもったものだからだ』 その言葉に「孤独の虚数空間」はすべてを理解した。世界を作ることのできるもの……世界を 産み落とすことのできるもの。それはすなわち神そのものだ。 ようやくにして彼は自分が未曾有の天啓を得たことに気づき、震えた。 ただ虚脱するだけだった百億年。ただ、過ぎることを願った千億年。 千億の時を越えて、「孤独の虚数空間」が願ってやまない望みが――かなうときが来たのだ。 『そうだ』 『私が君の願いを――かなえてあげよう』 そして「孤独の虚数空間」は眠りについた。 無為に過ごした目覚めている時間よりも遥かに意義のある、心地のよい夢だ。 「孤独の虚数空間」は生まれて初めて、夢を見た。「命」ある「世界」。自分が生まれ落ちるべき、 新たな世界。それに想いを馳せらせて見た夢はやがて実体を持ち、超えられぬはずの隔絶を超え 別の世界へと旅立っていった。 「孤独の虚数空間」が再び目覚めるその日まで―― 彼は知らなかった。 「神」というものは概して、いかなるものも救わず、いかなる望みもかなえないことを。 この世に「神」の名を騙るものが無数にいることを……そしてごく僅かに、本当に神に 匹敵するだけの力を持ちながら、神でないものがいることを。 そして、神に等しき力を持ちながら神でないものを――「悪魔」と呼ぶことを、彼は知らない。 #navi(無価値へのカウント・ダウン)
#navi(無価値へのカウント・ダウン) 【邂逅から始まるカウント・ダウン】 ---- 世界は「多様性」に満ちている。 誰が作ったのか、誰が始めたのか……それを知るものはいないが、ここには無限数の「世界」が存在する。 同じような世界、異なる世界……そういった無数の世界群が、どこまでも立ち並ぶ。 どれ一つとして同じもののない「世界」は、その内部に無数の「個性」を持つ存在――「生命」を抱え持つ。 彼らもまた、どれ一つとして同じものなどない。 彼らは干渉しあう。互いを愛し、互いを憎み、互いに笑い、互いに悲しみ、互いに喜び―― 干渉しあうことによって、彼らの世界は動いていく。彼ら自身が一秒たりとも「同じ存在」に とどまってはいない。己以外の何かからの影響を受けて、自分自身を変えていく。 「孤独の虚数空間」はそんな彼らを羨んでいた。 「孤独の虚数空間」。 連続する世界のはるか終端、「正と負の収束」「シュレディンガーの地平線」と呼ばれる 世界群の途切れに、「孤独の虚数空間」という世界が存在する。 世界は「多様性」に満ちている。だが、例外もある。それが――「孤独の虚数空間」と呼ばれる世界だった。 無限にあらゆる因果から隔絶された世界の終端には、あらゆるものが到達できない。 物質も、波動も、時間も、概念すら届くことのない無限の地平線。世界の意思以外は、何者も。 人が自我を持つように、世界もまた意思を持つ。それは有機体や無機物が持つ類のものではなく、 確率と因果が産み出す自我だが、紛れもない意思だ。世界もまた、喜びもするし悲しみもする。 「孤独の虚数空間」はその名が示すとおり――無尽蔵の孤独感を抱えていた。 あらゆるものから隔絶された世界。そこには、意思をもつもの――生命が活動できる環境がない。 「孤独の虚数空間」の内にあるのはいくつかの岩の塊やガスの塊、燃え盛る核融合反応と どこまでも転がる暗黒物質だけだ、「多様性」や「個性」とはまるで程遠い、百五十億年もの長きに 渡り何一つの変化も見せない「空虚」だけだった。 「孤独の虚数空間」は終わることのない孤独感と手に入らないものへの羨望に身を焦がし、 刻一刻とその身を変えていく世界たちを遠望しつづけていた。何万年も、何億年も。 彼――便宜上の表現だが――はその状況にも、変化が訪れるとがないと諦観していた。 『なんとさびしい世界であろうか』 彼が生まれてから何億年――あるいは何十億年だろうか? 誰も訪れるはずのないこの世界で、 彼は確かに誰かの「声」を聞いた。 戸惑う彼をよそにその声は、興味がまるでないような、それでいてひどく気になるような 声音で語り続けた。 『これはいけない』 『世界は変化しなければいけない。多様性に満ちた、独立性あふるるものであらねば』 『この世界は異端だ。あるべき形で生まれず、生まれたときから今のさまだった』 『生命は与えられた生をまっとうしなければならない。持って生まれた命の形を、  途中で変えることはできない。世界も然り。だが、生まれなおすことはできる』 ありえない現象を前に混乱していた彼だが、その一言だけは意識に残った。――生まれなおす? 『そうだ』 『今の君に独創性を、個性を、多様性を生み出すことはできない。だが、そういったものを  「生まれ持って」生まれなおすことはできる。そう、やりなおすことができるのだ』 『君もまた、あるべき姿になることが――できる』 生まれなおす。世界の新生。それはどんなものにも起こすことのできない、不可能の極致の はずだった。それをこの声は、できるというのか? 『そのとおり』 『私にはそれができる。私は――世界を産み落とす力をもったものだからだ』 その言葉に「孤独の虚数空間」はすべてを理解した。世界を作ることのできるもの……世界を 産み落とすことのできるもの。それはすなわち神そのものだ。 ようやくにして彼は自分が未曾有の天啓を得たことに気づき、震えた。 ただ虚脱するだけだった百億年。ただ、過ぎることを願った千億年。 千億の時を越えて、「孤独の虚数空間」が願ってやまない望みが――かなうときが来たのだ。 『そうだ』 『私が君の願いを――かなえてあげよう』 そして「孤独の虚数空間」は眠りについた。 無為に過ごした目覚めている時間よりも遥かに意義のある、心地のよい夢だ。 「孤独の虚数空間」は生まれて初めて、夢を見た。「命」ある「世界」。自分が生まれ落ちるべき、 新たな世界。それに想いを馳せらせて見た夢はやがて実体を持ち、超えられぬはずの隔絶を超え 別の世界へと旅立っていった。 「孤独の虚数空間」が再び目覚めるその日まで―― 彼は知らなかった。 「神」というものは概して、いかなるものも救わず、いかなる望みもかなえないことを。 この世に「神」の名を騙るものが無数にいることを……そしてごく僅かに、本当に神に 匹敵するだけの力を持ちながら、神でないものがいることを。 その神に等しき力を持ちながら神でないものを――「悪魔」と呼ぶことを、彼は知らない。 #navi(無価値へのカウント・ダウン)

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