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マジカリング - 001

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magicberry

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1.まほうのうでわ
「ねえ、おかあさん。これよんで!」
小さな女の子が、いつものように母親に絵本を差し出す。
まだ4歳、あるいは5歳になったばかりだろうか。細い黒髪とクリクリとした黒い瞳に、ピンク色のパジャマ上下の似合うかわいらしい女の子だ。
小さなその手で抱え込んでいる絵本は、何度もくり返し読まれたのだろう。ページの角は擦りきれ、表紙は色あせていたが、どうにか本の題名を読むことができた。
「まほうのうでわ」、と。
「またその絵本? ホントにそれでいいの?」
女の子の母親は、なぜ何度も読んだこの本がいいのか分からなかった。
まだ読んでいない絵本は、たくさんあるというのに。
「これがいいの!」
母親の気持ちを知ってか知らずか、女の子のほうはしきりにせがみ続けた。
「はいはい、わかりました……」
無邪気さゆえのわがままな姿に、母親は絵本を受け取るしかなかった。
「でも、いい? 読んであげるから、ちゃんと聞いてるのよ」
「うん!」
母親はゆっくりとページの最初をめくると、自分の娘に読み聞かせていった――

「まほうのうでわ」
むかしむかしのことです。
とあるお城に、一人のお姫様が住んでいました。
お姫様は体が弱く病気がちで、いつも部屋に閉じこもっていました。
「あーあ、私も外で遊びたいな……」
お姫様は窓辺に立って、外で遊ぶ子供たちをうらやましそうに眺めていました。
お姫様は、お医者さまに外で運動することを止められていたのです。
たいそうやさしい王様は、そんなお姫様の姿を見てとても悲しみました。
「そうだ。娘の病気を治すことができる者を、国中から集めることにしよう」
思いついた王様は、早速お触れを出しました。

姫の病気を治すことのできた者には、どんな褒美でも与える

すると、お触れを見た国中の人たちが「我こそは」と城にかけつけました。そして、さまざまなことを試したのです。
有名な博士は、病気の治る薬をつくりました。
美味しいと評判のレストランのシェフは、栄養たっぷりの料理をつくりました。
世界一強い戦士は、お姫様にもできる軽い運動すれば病気が治ると教えました。
しかし、誰もお姫様の病気を治すことはできませんでした。
「ああ……、やっぱり娘の病気を治すことはできないのか……」
王様は、あきらめてすっかり落ち込んでしまいました。
そんなときでした。
「王様、私(わたくし)めにお任せください」
遠く町はずれの鍛冶屋の若者が、城にやってきました。
若者は、何か小さい木の箱をもっていました。
「そなたは何を持ってきたというのだ?」
王様は、もしかしたらという思いで若者にたずねました。
「はい。これは、『夢を叶える腕輪』でございます」
若者は、木の箱から銀色に輝く腕輪を取りだすと、王様に差し出しました。
「ほう、『夢を叶える腕輪』とな……」 
王様は、この若者も失敗すると思っていました。
でも、もしかしたら、ということがあるかもしれません。
そこで、お姫様を呼んでその腕輪を試してみることにしました。
「きれい……」
銀の腕輪を手にとって眺めているうちに、お姫様はすっかり見とれてしまいました。
というのも、とてもよくできた腕輪だからです。お姫様の腕輪よりも、ずっと美しく輝きをはなっています。
「姫様、腕にお召しになってくださいませ。そして、姫様の望みを祈ってくださいませ」
若者は、お姫様にやさしく教えました。
「私の病気を治してください……」
お姫様は、若者の言う通りに腕輪を腕にはめて祈りました。
するとどうでしょう。お姫様の顔色がみるみるよくなっていったのです。
それだけではありません。
「すごい! 全然苦しくならない!」
お姫様は、部屋の中を駆け回ることができるようになっていたのです。
「おお! すばらしい! この者に褒美を! そなた、何が望みじゃ?」
お姫様の元気な姿を見た王様は、たいそう喜びました。
「では、私めにお姫様を……」
若者は、お姫様との結婚を申しでました。
お姫様は喜んで、この申し出を受けました。
こうして、鍛冶屋の若者とお姫様は結婚しました。
その後、二人はいつまでも幸せにくらしましたとさ。

「はい、これでおしまい。あら……」
母親は、自分の娘がいつのまにか眠ってしまったことに気が付いた。
「もう寝ちゃったのね……」
すっかりおとなしくなった女の子に、母親はやさしく布団をかけてあげた。
「おやすみなさい、アイリス……」
母親は、あどけない幼子の寝顔にそう言い残すと、魔法による部屋の明かりを消して部屋を後にした。

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