風のゆくえ


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風のゆくえ(かぜの-)は粕谷紀子の漫画作品。週刊セブンティーン1980年15-28号に連載。1985年に宝塚歌劇団で「はばたけ黄金の翼よ」と題しミュージカル化され、上演と同時期に、続編の「はばたけ黄金の翼よ<特別編>」が連載され、コバルト文庫でノベライズ(文・高山芳恒、挿絵・粕谷紀子の書き下ろし)された。

登場人物

クラリーチェ・デル・カンポ
先のカンポ公の庶出の姫で、ヴェネチアンブロンドの美少女。14歳。気が強く行動的だが、心優しい。カンポ公の妾だった母を失い修道院に入れられたが…
ヴィットリオ・アラドーロ
野望に燃える湖の国<イル・ラーゴ>若き大公。徹底した帝王学を身につけ、冷徹だったが…
ジュリオ・デル・カンポ
カンポ公。ボルツァーノの領主でクラリーチェの母違いの兄。隣国、湖の国<イル・ラーゴ>を打倒するため陰謀をめぐらせる。
ファルコ・ルッカ
ヴィットリオの幼なじみで腹心。クラリーチェを妻に迎えてから変化していくヴィットリオに不安を感じる。
ロドミア
ファルコの妹。黒髪の美女。ヴィットリオを深く愛している。

あらすじ

*見出しは長編作品のため便宜上つけたものです

プロローグ・霧の十字路

中世の北イタリア・ボルツァーノ…

尼僧院では、若い尼僧達が新入りのクラリーチェをからかっていた。彼女は気が強く「私のおとうさまはトマソ・デル・カンポ公」と言い返す。もともと厄介払いされ尼僧となった彼女達は、一抹のさびしさを感じていた。クラリーチェは「あなたの人生はあなたのもの、あなたの手でつかみとるもの」という母の遺言を強く思い出していた。

その夜、クラリーチェはカンポ宮を目指して出奔する。霧の中、十字路で道に迷い、迷信を信じて未来を教えてくれるよう願う。すると、馬に乗ったたくましい青年が表れる。クラリーチェは彼に尼僧院から飛び出して来た理由・尼僧院へ入った経緯を話し、「わたしの道はじぶんで決めるの。おかあさまのようにはなりたくない」言い放つ。すると、青年は彼女を抱きかかえ、尼僧院へ連れ戻してしまう。

尼僧院に戻ったクラリーチェは父・カンポ公が暗殺されたことを告げられる。会ったことも無い父であったが、流れ出る涙に彼女は戸惑う。ところが、突然美しいドレスを着せられ、化粧も施され、馬車に乗せられる。それは隣国イル・ラーゴのアラドーロ公ヴィットリオに嫁ぐためだった。尼僧院へ入れられたとき同様に、自分の知らないところで自分の人生が決まったことにクラリーチェは戦慄する。

カンポ宮へ到着すると、異母兄・ジュリオが彼女を出迎えた。イル・ラーゴの軍勢に囲まれたボルツァーノを救うため、アラドーロ公と結婚するよう、ジュリオはクラリーチェに頼む。クラリーチェは兄に父親のことを問うた。ジュリオは、父がクラリーチェ母娘を気にかけていたこと、クラリーチェの母を生涯愛すると語ったことを話す。それこそがクラリーチェの知りたかった真実であった。次に父の遺体と対面しアラドーロ公自身により殺害されたことを知る。アラドーロ公の残虐さを耳にし彼女は困惑するが、最終的に父の敵討ちのチャンスを期待して、人質として隣国へ嫁ぐ。

結婚

アラドーロ公の居城へ到着すると、クラリーチェはボルツァーノの従者と引き離される。周囲の環境を確認して、敵討ちの算段をする。しかし首尾よく仇を討った後の脱出が困難であることに気がつき恐怖する。「いや、死にたくない、もっともっと生きたい!生きて知りたいことがたくさんあるのに!」泣き疲れて眠ってしまった彼女の前に、アラドーロ公が現れる。それはあの十字路で出会った青年、その人であった。あの夜は、父カンポ公を殺害した帰りだったのだ。

その夜、礼拝堂で結婚式が行なわれた。城内が歓喜で騒がしい中、クラリーチェの心は晴れない。証人二人がつきそって床入れの儀式が行われる。クラリーチェは再びヴィットリオに問う。「…ほんとうにあなたが?」ヴィットリオは肯定し、状況を説明する。彼が彼女のネグリジェの紐に手をかけたとき、クラリーチェは隠し持った短剣でヴィットリオを殺害しようとする。…しかし、彼にわずかに傷を負わせただけで、彼女はヴィットリオに組み伏せられる。

「忘れるな、おまえの命はおれの気まぐれにかかっているということを!おれが憎いか?」

「憎い!さわらないでっ、舌を噛んで死ぬわ」

「やってみろ!」

…彼女の脳裏には、抗うことも出来ず尼僧院へ連れ戻された記憶がよみがえっていた。

クラリーチェはショックと板挟みから食欲も気力も無く、やがて昏睡状態におちいる。うっすらと意識の戻った彼女の額に、ヴィットリオがひんやりとした優しい手を置いている。そして、あの十字路の夜のことを語り始める。

あの夜、ヴィットリオはクラリーチェを殺すつもりだった。しかし、自分の人生を自分で作ると輝く様に語った彼女に驚き、そばに置きたいと思った。 「お前の人生は始まってさえいない。生きるがいい! 運命に逆らって自分の人生をつくろうとあがくのも、またおもしろかろう」

クラリーチェが生きる気力を取り戻し目覚めたが、すでに彼の姿は無かった。しかし、侍女から彼が徹夜で付き添っていたことを教えられる。彼女はヴィットリオの見送りに立ち上がるが、彼女の「もしもあなたが振り向いてくれたら…」という願いも虚しく、素っ気なく北の砦へ旅立ってしまった…

世継ぎの剣

ヴィットリオは快癒したクラリーチェを馬に乗せ、見晴らしの良い丘から領地を説明する。しかし、ヴィットリオの隙に乗じ、クラリーチェは彼の長剣を奪おうとするが、剣の重さによって阻まれる。男だったらと悔しさに震えるクラリーチェに、ヴィットリオは女が男を倒す方法を冗談めかして教える。それは色仕掛けだった。「おまえが女になるのを待っている」そう言って、クラリーチェを置き去りにして彼は去っていった。その晩、彼女はヴィットリオの考えに嫌悪感を持ち、色仕掛けを受け入れるのが女なら、女にはなりたくないと考える。

明くる朝、クラリーチェのもとにヴィットリオから美しい銀の剣が贈られた。それはアラドーロ家の世嗣が少年時代に手にする家宝であった。ヴィットリオの腹心であるファルコ・ルッカが冷たい目でその様子を眺める。

クラリーチェは城内で迷い、ファルコとヴィットリオの会話を耳にする。ヴィットリオは彼女を娶った理由を、市民の同情を集めボルツァーノを統治する際に利用するためだと語る。クラリーチェは憤慨し、剣の教師をつける約束を取り付ける。翌日、練習場所に現れたのはヴィットリオであり、自ら彼女に剣の手ほどきをする。女が男にかなわないことを身体に教えるため、という口実だが、ファルコはヴィットリオの行動に強い危惧を抱き、クラリーチェの暗殺を計画する。

クラリーチェは、兄のジュリオにヴィットリオの悪口を書き送ろうとする。事前にヴィットリオが目を通すが、一笑に付し届けさせる。やがてジュリオからの返事が届くが、どんなに辛くても逃げ帰ってはいけない、と彼女の望む返答ではなかった。

ファルコの裏切り

やがて、イル・ラーゴの豊作を祝う祭りの季節が来た。ヴィットリオはクラリーチェの警護をファルコに任せる。

貴族や有力者達の冷たい目線に疲れたクラリーチェは、ひとり宴から離れる。ところが、ファルコの妹・ロドミアがヴィットリオに深い愛情を告白するのを目撃し、しかも二人と目が合ってしまう。一人前の騎士に妻以外の女性がいるのは当たり前だと心を鎮めようとするが、やがて彼らを引き裂いているのが自分であることに気付き、苦悩する。すると、突然彼女の前に兵士が現れ、薬物をかがされ気絶してしまう。

城下は公妃の誘拐事件に大騒ぎになっていた。ロドミアも自邸に戻り、いっそ見つからなければ…と思い悩む。ヴィットリオは部下に全力で捜索させていた。ファルコは自邸に戻り、注文していた寝椅子(ソファ)が届いたことを確認するが、ロドミアによって椅子はズタズタに引き裂かれていた。

「ずいぶんぶっそうな寝椅子だことね、にいさま」寝椅子にカモフラージュされて、瀕死のクラリーチェが横たわっていた。ファルコはクラリーチェにベラドンナを盛り、このまま夜明けまでに徐々に衰弱して死亡するのだという。殺そうと思えばチャンスはいくらでもあったが、ファルコもまた、ヴィットリオの彼女への愛情を考慮し、殺害を躊躇したのだった。ロドミアは、兄が自分のために公妃殺害を謀ったと思うが、ファルコは直ちに否定した。ヴィットリオがクラリーチェに世継ぎの剣を与えたことを知り、彼女へのヴィットリオの深い愛情を知る。世継ぎの剣を女に与えることは、その女との子を後継者と認める、まさしく最高の愛の証である。

ヴィットリオも、有能なファルコが犯人を検挙できないことから、犯人がファルコであることに気付き始めていた。とそのとき、ロドミアからの呼び出しが届く。ヴィットリオは指示通り、ひとりで彼女に会いにいく。やがて小舟に乗ったロドミアとクラリーチェが現れる。彼女は解毒剤と世継ぎの剣を引き換えにしようとするが、ヴィットリオは拒絶し、逆にクラリーチェに剣を突き立てる。「薬を捨てるがいい!おれの感情をかけひきの道具にするな」ロドミアは慌ててそれを制止する。「わからないの?そんなことをしたら、あとでどんなに苦しむか」ヴィットリオの悲しむ姿を望まぬロドミアは敗北を悟り、解毒剤をそっと手渡す。

「あなたにもいまにわかるわ、愛するということはとらわれること、自由をうしなうことよ」

「おれは何も愛さぬ。おれは自由だ!」

やがて気がついたクラリーチェにヴィットリオは状況を説明する。

「この国でおまえを守ってやれるのはおれだけだ。これからはおれのそばを離れるな!」

クラリーチェも、今はその言葉に静かに従おうとするが、それは自分が有為な人質であるからだと、かえって警戒を深めるだけだった。

ジュリオの陰謀

数日後、ヴィットリオはクラリーチェに剣を常に身に付けるよう指示し、贈り物があると外へ連れ出す。広場にはすでにファルコの処刑の用意が整っていた。ファルコは両手両足をロープで馬に繋がれており、後は彼女が鞭で馬を叩くのを待つだけだった。クラリーチェは拒むが、ファルコに挑発されたヴィットリオが鞭を振り下ろす。

…しかし、クラリーチェがその瞬間に縄を切り、処刑を阻止した。市民は彼女が世継ぎの剣を持っていることに驚く。ファルコは彼女に自分を助けた理由を聞くが、自分の意志を明確に持ちヴィットリオに逆らう彼女の姿に衝撃を受け、去って行った。

追放処分になったファルコが、一度自邸へ戻ると無惨にも焼き討ちに遭い、家臣もみな殺害されていた。ただ妹のロドミアだけは、行方不明ということだった。彼はこれがヴィットリオの手によるものと思い、激しい憎しみを燃やす。

クラリーチェは身辺の警護のために、ヴィットリオと寝室を共にすることになった。彼女は、数々の屈辱を受けたにもかかわらず、彼の側で感じる安心感が不思議でならない。何故父を殺したのか、彼女の質問を発端とした会話の中で、ヴィットリオは「ゲームに勝っただけ」「人の命はコマに過ぎない」と言い放つ。

「では、私も利用価値がなくなったら捨てられる駒に過ぎないの!?」

「おまえは……ちがう…」

クラリーチェは彼に飛びつき、ひとときの熱い抱擁と口づけを交わす。しかし、ふいに恐怖と悔しさから悲鳴をあげてしまう。ヴィットリオは自分が一番彼女のことを考えている、むしろ兄・ジュリオの方が彼女を利用している、と告げ去っていく。クラリーチェもまた、その事実を認めかけていた。その晩、ヴィットリオはファルコ追跡の指示を出す。

ファルコは酒に溺れていた。そこをヴィットリオの部下に囲まれ殺害されそうになるが、ジュリオの一派によって救われる。彼はファルコにヴィットリオを倒す機会を与えると誘いかける。ヴィットリオに騎馬試合に招き、妹クラリーチェもろとも消し去ろうというのだ。ヴィットリオはこの罠に気がついたが、あえてその策に乗ろうとしていた。

イル・ラーゴの一行がボルツァーノへ到着した。クラリーチェは兄の姿を見て、彼が自分を利用するはずが無いと強く信じる。騎馬試合ではボルツァーノ側の騎士が意図的に反則を繰り返すが、ヴィットリオは圧倒的な強さを見せつける。クラリーチェは激しい騎馬試合の中、彼が無事であったことに思わず涙を流してしまう。彼はクラリーチェが兄の陰謀に気付くまで事を荒立てない事にした。

一方、騎馬試合に乗じての暗殺に失敗したジュリオに、ファルコはヴィットリオの弱点はクラリーチェであると告げる。ジュリオは彼ら夫婦に愛情があることをにわかに信じられないでいるが、ファルコは復讐の機会だけを望んでいた。

その夜、歓迎の宴が華やかに催されていた。クラリーチェは兄に呼び出され、ヴィットリオは執拗に美姫に誘惑されていた。ヴィットリオは女の素性を知ると、一瞬でジュリオの策略を悟った。

クラリーチェは久々の再会を素直に喜ぶが、会話はヴィットリオの企みに関してだけ。再び兄・ジュリオに彼女の力が必要だと言われ、ヴィットリオの正しさと兄への情愛の狭間で躊躇する。その様子を見て、ジュリオはヴィットリオが彼女を愛していない証拠として、彼とあの美姫との情交の様子を覗き見させる…

ヴィットリオへの信頼を完全に失ったクラリーチェは、彼女の居室を訪れたヴィットリオにかつて住んでいた館を見せたいと、遠乗りに誘う。彼はジュリオの陰謀である事は見抜いており、同時に部下に事前に派遣した自国軍に挙兵させるよう指示する。

懐かしい館で、クラリーチェは再びヴィットリオに、先のカンポ公が本当に彼女ら母娘を愛してはいないことを指摘される。彼女は現実を受け入れられず声を荒げたとき、ジュリオとその一派が彼らを取り囲んでいた。ヴィットリオの部下は殺害され、命令は伝わらなかったのだ。すぐさま戦いになりヴィットリオはジュリオを人質にとるが、同時にクラリーチェもファルコに捕らわれていた。ファルコはクラリーチェの首を絞め、ヴィットリオの愛情を試す。

「おまえは、なにかを愛するようなヘマはしないと言っていたな…」

徐々に青ざめるクラリーチェの姿を目の当たりにし、ヴィットリオは自ら剣を捨てた。ファルコは再びその姿に驚く。クラリーチェも彼が自分を助けるために、自ら囚われの身になったことに混乱する。そんな彼女をジュリオはそのまま館の一室に生き埋めにした。

良心

カンポ宮では、ヴィットリオに対する苛烈な拷問が行われていた。ファルコはサディスティックに彼の体に鞭を打つ。ジュリオは焼けた鉄の棒を彼に突きつけていた……

ファルコはヴィットリオの血に濡れた自分の手をみて、少年時代を思い出していた。冷徹な君主になるように、年長の彼がヴィットリオを導いて来たのだった。そんなヴィットリオがクラリーチェと出会って以来変貌した事を考えながら、ファルコはクラリーチェのもとに馬を走らせる。

クラリーチェは叫び続けても無駄で精根尽きかけ、ヴィットリオへ助けを求めてしまう。そして剣術での彼の教えを思い出し、最後まで諦めない事を誓う。彼女が部屋を塞ぐ大量の瓦礫に足をかけたとき、朝日が差し込んで来た。誰かが外から隙間を作ったのだった。彼女は脱出すると即座に街道へ出て馬車に相乗りし、ヴィットリオを追ってカンポ宮へ向かう。

自分の身より、ヴィットリオの事を案じるクラリーチェの姿を見て、ファルコは敗北を確信し去っていく。彼もまた、ヴィットリオが誰かを愛する心弱い人間になることを望んでいたのだった…

さて、クラリーチェが相乗りした馬車は、衣服商人の馬車だった。彼女は変装のために服を交換しようとするが、自分がまだ世継ぎの剣を持っていた事に気がつく。そして髪を切り捨て、少年に扮装して城下町で探索するが、衛兵に不審がられて問いつめられてしまう。

彼女の窮地を救ったのはロドミアだった。落ち延びたロドミアはヴィットリオを追い求めボルツァーノに来ており、騎馬試合にともなう繁忙に乗じ、カンポ宮で給仕女として働いていたのだった。ロドミアの機転により、クラリーチェはロドミアの弟として難を逃れる。

しかしロドミアは、ヴィットリオを憎んでいたはずのクラリーチェが扮装をしてまで彼を救出しようとしている事に衝撃を受ける。二人は協力してヴィットリオを救い出す事にする。衛兵の一人に居場所を聞き出し、ロドミアが毒を盛って門番を昏睡させた。そしてその部屋に入ると、鎖で壁に繋がれ、体中に暴行を受けたヴィットリオの姿があった。特に左目は焼けた棒を突き入れられ失明していた。その様子を見て、涙を流し額に口づけするクラリーチェの姿を、ロドミアは見ていられずに立ち去ってしまう。

「わたしにだってできる!ただ、彼が愛したのが、この私ではないだけ!」

意識の戻ったヴィットリオにクラリーチェは許しを請おうとするが、彼はそれを遮り自分の計算の甘さを語る。二人は脱出するが、彼はクラリーチェに伝令を頼み自らは騎馬試合に出ると言う。

「おれの身体はおれにまかせておけ。女は余計な口を出すな!」

騎馬試合

ジュリオの期待に反し、ヴィットリオは大怪我を負ったまま出場した。ジュリオを後一歩のところまで追い詰めるが、前日からの疲労で倒れてしまう。そこで気付けの酒が用意されたが、それには毒が入っていた。ヴィットリオの口にそれが流し入れられようとしていた瞬間、ロドミアはその酒を奪い、公衆の面前で身を持って彼が毒殺されかけた事を証明した。

「愛されなくてもいい、でもあなたを愛することでだれにも負けたくないの…」

ヴィットリオの腕の中でロドミアは息絶えた。そして、クラリーチェの読んだイル・ラーゴ軍が競技場と市街を包囲する。混乱に乗じてジュリオは地下通路から城内に戻るが、クラリーチェがそっと後をつけていた。彼女に気がつき、なおも人質として交渉のために利用しようとする兄と口論になり、剣で戦う。

「強がっていても、しょせん女だ。男にはかなわぬ。女は素直に従えばいいのだ」

「女はしょせん男にかなわないから、運命を男にゆだねて生きろというの?」

クラリーチェは悔しさで泣き出す。ジュリオは彼女に近づき、

「男にたち打ちしようなどと思い上がるな!おまえの大事なヴィットリオも同じ考えに決まっている」

とささやくが、クラリーチェは強く否定しながら、ジュリオの体を剣で貫き刺殺してしまった。

エピローグ・依存と自立

すべてが終わり、クラリーチェは自分がヴィットリオを愛していることをようやく認めた。しかし、脳裏には兄の言葉がよぎり、彼が自分をどう思っているのか疑問に思う。

クラリーチェはそっとヴィットリオの寝所を訪れ、愛情を交わしあう。しかしヴィットリオの「おれを信じてついてこい、おれがお前をしあわせにしてやる」という囁きを、彼女はジュリオの言った通りだったと思い込む。

しばらく後、ボルツァーノの市民会議は統治をアラドーロ公に委ねる事を決定した。彼らの姿にヴィットリオは嫌悪感と虚しさを感じた。同時にロドミアとクラリーチェの行動と勇気に、女のしたたかな強さを感じていた。冷徹だったはずの彼の心にも、あの霧の夜以来クラリーチェの姿が深く焼き付いていた。

とそのとき、クラリーチェが城を出て行くことで城内が騒然となっていた。ヴィットリオは彼女を問いただすが、彼女はヴィットリオを愛していると言う。

「命令だ、おれのそばにいろ。どんな女よりしあわせにしてやる」

「愛せと命令されたら愛せない。このままではわたしはあなたの愛にすがって生きることに慣れてしまう、それがこわいの」

ヴィットリオはクラリーチェの言う事が全く理解できず、呆然としている。だがクラリーチェを失う事は出来ない。

「おれにすがって生きるのが、なぜいけない?強い男に愛されることこそ、女のしあわせではないか」

そのままクラリーチェは城から出て行くが、彼女もまた悩み続けていた。そのまま、彼に身を委ねれば愛情に包まれ幸福に生きていける。それは彼女も分かっていた。

「どんなに愛されても、ひとが与えてくれる人生では、ほんとうにしあわせにはなれないわ」

しかし、城から出奔してほどなく捕えられ、連れ戻されてしまう。

「ヴィットリオ!わたしはヴィットリオから逃れられない、心も身体も」

(完)

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